1348話 スケッチ バルト三国+ポーランド 67回

 

 落穂ひろい その6

 

森の墓・・・リーガの北は深い森になっていて、その一部が広大な森林公園になっていて、その中には巨大な野外ステージや動物園などいくつもの施設がある。

 路面電車で森林公園に行くと、公園に着く前から車窓から森が見える。そして、道路に近い場所に人の姿が見える。墓が見える。きょうは日曜日だ。墓参りをしているのだろう。森に墓があるのだ。整備された墓地ではなく、木々の間の草を刈り、そこに墓石を置いたというもので、木は立ったままだ。このコラムで建築の話をしたときに、木造建築が多く、この地域は木の国だと書いた。木の国であると同時に森の国でもある。

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 森林公園は大きすぎて、歩いていてはとても全貌はつかめない。

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 バルト三国には、「歌う革命」(1987~91)というものがあった。歌でソビエトと対抗するという運動だ。ラトビアでは森林公園の野外ホールで大合唱大会が開催された。いまでも5年に一度、世界各地に散ったラトビア人が歌うためにここにやって来る。

 

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 路面電車から何かが見えて、バッグからカメラを出した。

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 墓のようだ。

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 整地された墓地といっても、せいぜいここまで。きっちりと区画整理されていない。

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 森の中の墓は、墓碑のある樹木葬のようだった。

日記・・・もう何十年も、旅の日記は「コクヨ ス-5BN」というスパイラル式B5版40枚のノートを使っている。小さいからバッグから取り出しやすく、ページの左側に縦に罫線が入っている。通常はノートの左側が空白だから、訂正や加筆や注を書き入れることができる。日記本文のある記述に赤いアンダーラインを引き、「このあたり、再度確認すること」などと、左側に記入する。

 ペンはゲルインクのボールペンなどいろいろ使ってきたが、数年前から万年筆に代えた。普段、手書きで文章を書くことがなくなったから、旅行中くらい万年筆でゆっくり旅のメモを書いておきたいと思ったのである。

旅先で最初に日記を書くときは、それはもうひどいもので、手が震え、まともに字が書けない。自分でも読めない文字になってしまうのだが、数日すると昔のように、下手は下手なりに、文字を綴ることができるようになる。万年筆は旅先でなくしても壊れても後悔しないように安い物を使っている。昨年は、「PILOT  KAKUNO 極細」にした。ノートは普通罫というやや狭い罫線なので、極細なら画数の多い漢字を書いてもつぶれないという利点があるのだが、極細だけにカリカリと紙にひっかかり、けっしてなめらかな書き味というわけではない。

 そこで、今年は「PILOT  Vpen  F」にした。Fは細字なのだが、このVペンの細字は中字くらい太いことは昔から知っているのだが、今年は「なめらかな書き味」を優先した。だから、画数の多い漢字を書くと、青い塊になってしまう(インクは青だから)。まったく偶然なのだが、旅が間もなく終わりそうなころ、いつもノートのページも残り少なくなり、万年筆のインクもなくなる。カートリッジ式の万年筆を使ったときも、ちょうど1本使いきったころが、旅を終える数日前というところだった。今年は、使い捨てのVペンのインクを使いきった。

 次回の旅は、買ったもののそれほど文字を書いていない「LAMMY F」を持っていこうかと考えている。ゲルインクのボールペンやジェットストリーム(uni)は、たしかに書きやすいが、書いていて楽しくない。だから、事務用にはいいが、旅日記用にはしたくない。

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 このページが、Vpenの最後で、ボールペンが交代した。

・・・ヨーロッパを旅するようになってから変わったことは、靴を履いて旅するようになったことだ。靴を履いて日本を出たのは、取材旅行を別にすれば、生まれて初めての海外旅行のときと、アフリカに行ったときだけだ。ところが、もっぱらヨーロッパを旅するようになったここ10年ほど、靴を履いているのが当たり前になった。「サンダルでは失礼」というのではなく、たんに「寒いから」という理由からだ。

 ヨーロッパを旅するには、石畳の道対策としてクッションがよく、滑りにくい靴を用意する必要がある。古い石畳の道は、表面がすり減って雨でも降ればとても滑りやすい。私の旅は、1日に15キロから20キロは歩くから、履きやすさが靴を選ぶ唯一の条件だ。長年の経験でわかったのは、靴の価格と履きやすさは関係ないという事実だ。だから、ブランド品など買ったことがない。

 

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 この靴は5800円だったか。「3200円の50%OFF」という靴も、同じように履きやすかった。帰国の日の空港で、そんなことを思い出していたら、写真に残しておきたくなった。この靴が私の旅を支えてくれた。