1622話 本で床はまだ抜けないが その30(最終回)

 図書購入台帳 その6

 

 注文していた『北欧建築紀行』(和田菜穂子、山川出版社、2013)と『世界の野外博物館』(杉本尚次、学芸出版社、2000)が届いた。建築物の旅ガイドだから、旅に出かけられるようになるまでは、実用書としては使えない。野外博物館というのは、伝統的家屋を移築あるいは新築し、そこでの生活を紹介するような博物館で、バルト三国の野外建築博物館をすべて訪問し、楽しんだのでこういう本を買った。実は博物館のガイドではなく、時代ごとの住宅とそこでの生活資料を読みたかったのだがなかなか見つからないので、とりあえずこの2冊を注文したのだ。バルト三国の野外博物館にしても、ガイドブックもリーフレットさえない。私が世界住宅史にまるで疎いので、目にしている昔の住宅の情報をほとんど読み取れない。

 北欧に野外博物館が多い理由は、キリスト教が浸透するのが遅かったので、キリスト教以前の文化が残っていて、それを保存しようという動きがあるかららしい。アメリカの場合は、カウンターカルチャー、あるいはヒッピー文化の影響で、機械文明よりも手工芸など「自然とともに生きる」という発想や少数民族への関心が野外博物館建設の発想にあったらしい。有名建築家の作品鑑賞本などより、こういう内容の本の方がはるかに興味深い。

 この2冊を図書台帳に記入した。図書館のように本にラベルを貼るわけではないが、通し番号は台帳につけている。この2冊が、9999冊目と10000冊目になる。

 だからと言って、これで蔵書が1万冊になったというわけではない。買ったが、台帳に記入していない本はいくらでもある。買って、「なんだ、これ!」という内容だった本はすぐ捨てた。ブックオフで100円で買った本に多い。

 おもしろいが、すぐ処分することがわかっているマンガは記帳していない。旅行しようかと思う場所を中心に『ゴルゴ13』を何冊も買っている(ラトビア編も読んだ)。機内で読むために、『三丁目の夕日』(西岸良平)や『人間交差点』(弘兼 憲史+矢島正雄)や『築地魚河岸三代目』(はじもとみつお)ほか多数。まとめて買って、まとめて処分したのは『博多っ子純情』(長谷川法世)34巻。ブックオフに行けば、今も探して買っているのが、いしいひさいち東海林さだおなど。痛みの激しい「世界の秘境シリーズ」(双葉社)13冊を古本屋でまとめて買って読んだ話は、この雑語林の193話以降何回か書いている。文章にしたあと、置き場所に困って、捨てた。「話の特集」や「面白半分」や「旅行人」などの雑誌は、記帳していないが、捨ててもいない。

 映画や博物館・美術館のパンフレットや図録も図書台帳に記入していないことが多い。すぐすてるわけではないが、なぜか記帳していない。そのほか、すでに書いたように、記帳を忘れただけという本もある。

 だから、「いままでに買った本」ということでは1万冊ははるかに超えるが、処分した本も多いので、現在何冊ウチにあるのかわからない。一般市民のレベルで言えば蔵書が多いのは明らかだが、研究者や文筆家やコレクターのレベルでいえば、「多いとはまったく思えない」というレベルだろう。蔵書数など謙遜でも自慢でもなく、「ただ、ある」と言うだけのことだ。私は、読むことよりも買うことの方がずっと重要なコレクターではないから、古書店主が喜ぶ蔵書ではないが、それを恥ずかしいとも思わない。十代からずっと、読みたい本を読んできただけだのことで、自慢したくて本を買ってきたわけじゃない。

 『世界の野外博物館』の参考文献リストから、私の関心分野に近い本を探した。『建築巡礼4 ヨーロッパの民家』(太田邦夫、丸善、1988)と、『世界の住まいと暮らし』(服部岑生編著、放送大学振興会、1999)の2冊を注文し、すぐさま読んだ。引き続き建築の本を調べて、おもしろそうな本をアマゾンの「ほしい物リスト」に入れているのだが、建築の本は高い、ああ。並行して、食文化関連書にも手を伸ばしている。藤原辰史(京都大学)の2冊、『給食の歴史』(岩波新書、2018)と『ラクターの世界史』(中公新書、2017)もすでに届いた。この2冊の新書をすぐ読むのはもったいないので、買ったまま山に積んでいる本の中から、『藝人という生き方』矢野誠一)、『タモリのTOKYO坂道美学入門』(タモリ)、『海外ビジネス案内』ダイヤモンド社、1964)や文庫加筆分を読みたかったので買った『物語を忘れた外国語』(黒田龍之介、新潮文庫)などを片っ端から読み飛ばす休息読書。いわば、間食である。きょうは『ごっくん青空ビール雲』(椎名誠)を読んで、いよいよ明日から藤原辰史に取り掛かり、おもしろければ『稲の大東亜共栄圏』などを注文する予定。

 こうして本は増え続けているから、「1万冊目」など単なる過去の通過点で、何の意味もないのだが、「前川は、いったいどれだけ持っているんだ」と知りたい読者がいるかもしれないので、サービスで一応書いておいただけだ。渡航回数や訪問国数などと同じように、もちろん、まったく意味のない数字だ。

 というわけで、連載「本で床はまだ抜けないが」は今回で終了。更新は、しばらく夏休みです。