1680話 「旅行人編集長のーと」に触発されて、若者の旅行史を少し その28

 戦後旅券抄史 6

 

 2022年4月に私のパスポートの有効期限が切れるから、更新しなければいけないのだが、なかなか体が動かない。前回の、嫌な記憶があるからだ。その話に入る前に、2冊目のパスポートの写真の話をしておこう。

 私にとって2冊目となる1978年発行のパスポート写真は、1974年にネパールで出会ったカメラマンのアパートで撮影してもらった。上着、ワイシャツ、ネクタイも彼のもので、我々が「貧乏人のハッセルブラッド」と呼んでいた愛用のマミヤ645で撮影してもらった。代金は支払っていない。3冊目も別のカメラマンに撮ってもらった。オフィスの白い壁を背に、私のオリンパスOM2で白黒各種写真を20枚ほど撮影し、全部をプリントして、サイズに合わせて切った。この時は上着は着ているが、ネクタイはない。4冊目以後は普段着で撮影している。現在は顔だけのアップなので、極端に言えば、全裸で撮影しても、顔だけしか使わないから支障はない。

 現在持っているパスポートは2012年に取ったものだ。申請の日の午前中、パスポートセンターの1階にある証明写真ボックスで、パスポート写真を撮った。かつては、画質が悪いからだろが、「インスタント写真不可」と申請書類の写真の項目に書いてあったが、いまではスマホで撮影し、自宅でプリントするという人も少なくないからか、証明写真ボックスの画質で充分だ。ちなみに、私のパスポートでは、2002年発行のものまで、白黒写真だ。

 1階で顔写真を撮り、2階にあがって申請書に記入し、提出した。今までは、これで終わりだが、「ちょっと」と声がかかった。「メガネに光が当たっているから、取り直してください。メガネを外した方がいいです」と受付書類を点検しているおばちゃんが言った。「おいおい、そんなの・・」と思ったが、まあ、しょうがない。1階に降りて、また撮影した。2枚目の写真も「不可」だとされて、突っ返された。写真の上辺と頭頂の感覚が「4ミリ±2ミリ」と決まっているが、1ミリ広いというのだ。椅子を少し下げすぎたか、背の伸ばし方が足りなかったのか。こういう役人とケンカしても、勝てないことはわかっているが、それにしても、1ミリだぜ。こういう時に、私は日本が大嫌いになる。しかたなく、3枚目の撮影をして、合格した。

 今回、また役人との闘いになりそうなので、気が重い。役人が合格印を押す写真を用意しなければいけない。どういう写真が「適切」なのか、外務省のサイトにあたった。これを読むと、「旅券用写真の規格は、渡航等に関する国際機関である国際民間航空機関(ICAO)の勧告に基づいて定められています」と書いてあるが、「ウソだね」と確信した。写真の上下左右と顔の位置をミリ単位で規定して、世界がそれに従うわけはないと思った。「4±2mm」などという規定を、文字通り杓子定規に物差しを持って計測している国があるとすれば、それは日本だけだと思った。

 そこで、ICAOのパスポート写真の規定を見ると、サイズは個々の国で決めているらしい。ミリ単位の規定と言っても、アメリカではインチ表記で、1ミリを決める規定は不可能なのだ。

 このページを見ていると、顔を隠したい国(民族、宗教)の規定はまさに国ごとで、どうやら男はシーク教徒以外被り物は許されないようだが、女は自国と他国の役人次第ということらしい。

 その昔、西洋人女性のパスポートを見せてもらったら、斜めを向いてにっこり笑っている写真で、「日本じゃ、こういう写真はダメなんだ」といったら、「つまらない国!」と判断されたのだが、今は世界のどの国も、微笑んではいけないんだ。ななめ横向きもダメ。メガネに関する規定はかなり厳しいようで、メタルフレームのメガネでも目に近くにフレームがあると、バツだ。

 パスポート写真最大の問題は、カツラだろうな。おそらく、規定はこうだ。私が真っ赤なカツラをかぶっていれば、その写真は不可。黒か白髪のカツラで、「かぶっているな」と誰からもわかる場合でも、許容範囲の髪型なら、見なかったことにするんじゃないかな。「あんた、カツラでしょ。取って、撮影してください」とは、さすがに言わないだろうなあ。芸能人のあの人や、かの人にも言ったらおもしろいが・・・。