1810話 雑話の日々 その2

 

書店にて

 今年2度目の神保町散歩をしたときのこと。その前に用があったので、神保町に着いたのが午後のかなり遅い時間だったので、のんびり散歩する時間はなかった。水道橋駅から靖国通りに南下する通りの古本屋は、ほとんどシャッターが下りていたり飲食店などに変わっている。その原因は、本が売れないということと後継者不足ということらしい。

 古本屋の店頭ワゴンに、ある国の滞在記を見つけた。その本のことは知らないし著者も知らない。出版されたばかりの定価2000円の本に「500円」のラベルをつけているから、安いことは安い。ページをパラパラめくると、「オレが読む本じゃないな」という気がした。偏見だとか性差別主義者だと批判されるかもしれないが、長年の経験から、女が書いた旅行モノはあまり触手が動かないとわかっている。著者と好みが合わないのだ。「ここのアイスクリームがとってもおいしい」とか「この店の雑貨がかわいい」といった文章がついているイラスト本には用がない。

 神保町をひととおり歩いて帰路、その古本屋の前をまた通りかかり、またワゴンの本が気にかかり、再び手に取って、「うん、買っても、読まないな」と最終判断を下した。帰宅して、ネットであの本や著者のことを調べた。アマゾンの評は、いかにも私が書きそうな批判で、「やっぱりな」と納得した。私が危惧したことがちゃんと書いてある。アマゾンの評は説得力がない文章が少なくないのだが、その評は納得できた。

 だいぶ前から、アマゾンの「ほしい物リスト」に入っていた『世界の台所探検-料理から暮らしと社会が見える』(岡根谷実里、青幻舎、2020)を古書店で見つけた。この本をアマゾンで見つけてもすぐに買わなかったのは、世界の台所に興味はあるが、やはり「女の本を信用してもいいのか?」という疑念があったからだ。誤解のないようにあえて言うが、女が書いた本がすべてダメで、男が書いた本はすべていいと言っているのではない。台所の本でも、『台所から見た世界の住まい』(宮崎玲子、彰国社、1996)のような本があり、「満点!」とまではいかないが、「買っておこう」という程度の評価はあり、実際に買った。さて、『世界の台所探検』だが、この本を「台所の本」だと思ったのは私の誤解だった。要するに各地の台所で作っている料理のレシピ集ということで、台所そのものに対する調査や解説はない。誤解した私が悪いのであって、レシピ本を書いた著者に責任はない、か?

音楽の新聞広告

 新聞を開いたら全面広告に「小田和正 CD 10枚セット」という文字が見えた。説明を読むと、小田和正が作曲した曲を集めた演奏物だというのだが、小田の歌なしで、CD10枚セット? 誰が買うんじゃ!

 やはり新聞の広告で、「いつでもどこでも極上のクラシックあなただけの名曲玉手箱」。100曲がCD何枚組なのか書いてないので説明を読むが、CDはない。カセットテープでもない。なんとSDカードでの販売なのだ。SDカードだと再生できない老人も多いので、再生機とセットの販売だ。立方体のスピーカー付き再生機もつけて、19800円だそうだ。ふーん。

 「ジェットストリーム100曲」と新聞の折り込み広告にあった。こちらはCDでもSDカードでもなく、再生機に内蔵した音源だ。CD再生機とラジオなどがついて約5万円だそうだ。

 ラジオ番組での会話。50代の芸人が30代のタレントに、「初めて買ったCDは?」と聞くと、「アタシ、CDって買ったことがないんです」。その話をそばで聞いていた新人アナウンサー、「アタシ、CDって見たことないんです」。

 このおっさん(私のこと)は、SPレコード、LPレコード、ドーナッツ盤、EP盤、ソノシート、オープンリール・テープ、カセット・テープ、それにMDだって知っている。携帯用MDプレーヤーだって持っていたのだよと言っても、同世代の人しかわからないだろうなあ。DAT(Digital Audio Tape )は知っているが、買ったことはない。