1855話 ビデオとカセットテープ

 

 とくに何かのきっかけがあったわけではないが、整理整頓をしたくなって、まずビデオテープを処分することにした。テレビで放送されたアジア映画や、アジア関連のテレビ番組を録画したビデオテープはすでに処分した。今回は、まだ手をつけていなかったタイ関連のビデオの番だ。

 衣装ケースに入れていたテープを取り出した。数十本ある。タイ音楽やタイ映画のビデオで、市販品のほか、バンコクレンタルビデオショップに通って、レンタル商品を「これ、売って!」と頼んで買い込んだビデオだ。これらはVHSでもベータマックスでもなく、PALというシステムだから、そういうビデオが再生できるデッキも買った。今回はその再生機器もいっしょに処分する。プムプアン関連のビデオはひととおり揃っているが、なるべく見ないようにしてゴミ袋に入れた。貴重なら、タイでデジタル化して売られているだろうし、タイ人が「要らない」と考えているなら、もうこの世にないかもしれないが、それはそれでしょうがない。タイ人は、過去の遺産を残すということをあまり重要視しない。遺跡類なら観光名所になるから保存を考えるかもしれないが、大衆音楽の資料はゴミ同然なのだ。だから私は買い集めていたのだが、「まあ、もういいか」という気分だ。

 音楽テープは、何本あるかわからない。50本入りのケースが30ほどあるから、1500本あるのは明らかで、そのほかバラで衣装ケースにも詰まっているから、2000本くらいあるかもしれない。タイ国内で各種タイ音楽のテープを買ったほか、国境でビルマ音楽のテープを箱買いしている。ラオス音楽は、私が初めて行ったときはまだ市販のテープは10本ほどしかなく、2度目に行ったときはVCD(DVDが普及するまでの場つなぎのディスク。画質は、当然悪い)になっていた。カンボジアではタイ国境近くで、カントゥルムというジャンルの音楽テープを買い集めた。ベトナム音楽は、初めてベトナムに行った1996年はすでにCD時代に入っていて、50枚以上買った。カセットテープは買っていない。

 旅先で買ったテープは、バンコクの部屋に持ち込み、一度は聞いた。そして、散歩の途中で見つけておいた堅い段ボール箱に詰めて、日本に船便で送った。カセットケースが重いのだが、だからといってケースを外して送ると、あとで整理に困るわけで、しかたなくケースごと送った。これが毎年の作業だった。1990年代の船便の送料は毎年かなり値上がりしていたが、「もう、買うのはやめよう」とは思わなかった。

 タイ人にとってカセットテープは新聞か雑誌のようなもので、「聞いたら、おしまい」の消耗品だ。車のダッシュボードに置いたままで、炎天下の直射日光に照らされているのを見たら、「きちんと、保管しておこう。もう2度と手に入らないかもしれないのだから」と思って買い込んだ。日本で大量に雑貨を買い込んだE.S.モース(『日本その日その日』)の心境だった。

 今はほとんどタイ音楽を聞くことはなくなったが、ごくたまに、たまらなく聞きたくなることがあるが、YouTubeを探れば、「スナリー ベストヒット」だの、「スンタリー ヒット集」でも、すぐに聞くことができる。「カセットテープは捨ててもいいか」と思ったきっかけのひとつは、このYouTubeだ。

 さて、これから廃棄作業だ。タイ音楽のテープを選別もせずに、上からワシつかみでテープを取り出し、ジャケット写真を見ずに、ゴミ袋に入れた。選別すると時間がかかり、最終的に捨てられなくなるから、テープのジャケットは見ないようにする。でも見えてしまうことがあり、心が痛む。あまり重くなると袋が破れるので、今朝は100本ほどにしておいた。今後、20回以上このゴミ捨てを繰り返すと、ウチからテープはなくなる。次は、本だ。