1904話 言葉は実におもしろい。地道に勉強する気はないけれど・・・ その15

 

中国語

 前回、説明なしに中国語の簡体字繁体字の話をした。中国語をまったく知らない人にはチンプンカンプンだろうから、ここでちょっと解説しておこうと思ったら、手ごろな解説記事があったので、リンクしておく。まず、これを読んでいただきたい。

 この記事では、繁体字は台湾、香港、マカオ簡体字を使っているのは中国のほかシンガポールとマレーシとあるが、マレーシアの商店看板などは繁体字のものも多いという印象だ。古い店は、昔のままにしているということだろう。

 中国語をどの書体で書くかということが重大な意味があるというエピソードを、台湾でテレビを見ていて知った。

 コロナ禍前の、日本に外国人観光客が押し寄せていた時の話だ。アジアからの観光客が日本で問題になっているという日本のニュースを、台湾の報道バラエティー番組で紹介していた。日本でもよくある番組構成で、外国の番組を紹介して、スタジオの出演者が「あーだ、こーだ」という番組だ。

 テレビ画面に北海道のラベンダー畑が映る。観光客が畑に入り込み、記念撮影を互いにしている。「お花畑の私」という画像だ。観光客の行動があまりに傍若無人だというので、日本人が「畑は私有地だから、勝手に入り込まないように」という中国語の看板を立てたという日本のニュース映像を紹介したあと、画面は台湾のスタジオに戻る。コメンテーターらしき出演者が、ほえる。

 「なぜ、繁体字の表示なんだ。あんな不作法なことを平気でするのは中国人だ。台湾人観光客ももちろんいるが、圧倒的に中国人が多いんだ!」

 蛇足ながら解説をしておくと、繁体字の注意表示は主に台湾人に向けたと、台湾人は理解する。それはおかしいだろう。中国人に対して注意を促すなら、中国で使っている簡体字で書くべきだというのが、台湾側の主張だ。「だから、我々は日本側に抗議した」という発言で、番組は終わった。

 番組最後に、問題となった花畑が映り、簡体字の注意看板が追加して設置されていた。

 次は、東南アジアの中国語の話だ。1980年代、マレーシアのマラッカでぶらぶらしていたとき、ヒマな若旦那たちと知り合った。近所の小店主の息子たちで、ヒマをもてあそび、わが宿の若旦那のところに遊びに来て、ロビーでしゃべったいた。そこに私が加わり、マレーシア雑学の講義を受けた。昼時になると、知りたがり屋の私を連れて、「今日は、広東料理」、「今日は福建料理」と食堂巡りをした。ある日、「甘くない飲み物で食事をしたい」と言ったら、「それなら、テーオーコーソンアイスと注文すればいい」と言われたが、なんのことやらわからない。若旦那のひとりは、私のノートに「teh o kosong ais」と書いて説明してくれた。tehが茶だということはすでに知っていた。oは「烏」だがカラスではなく、黒だ。Kosongは「これはマレー語。英語ならonlyだ。砂糖もミルクも入れないから、『茶だけ」だな』。それにais(冰)がついて、「アイスティー」の意味になる。

 oは黒か。そういえば、烏龍茶だって、カラスの茶ではなく、黒い茶の意味だ。もう中高年しか知らないタイの飲み物に、オーリャンというものがあった。コーヒー豆がどれほど入っているか不明だが、タイ人が「アイスコーヒー」と呼んでいる飲み物で、漢字で書けば「烏涼」である。

 東南アジアの飲食物は中国の影響を強く受けているから、わずかばかりの中国語の知識でも、「ああ、そうか!」と世界が開けることがある。

 インドネシアのラーメンのような汁そばを、bak mieという。タイではバミーというから同じ語源だ。Mieは麺だ。Bakは豚肉のことだ。台湾のチマキは肉粽と書き、台湾語では「バアツアン」という。このバアが「肉」だということは漢字表記でわかる。

 中国語起源のタイ語は、冨田先生の『日タイ大辞典』(めこん)に詳しい。中国語起源とされるタイ語をリストアップした資料を見つけたので、紹介しておく。中国語が少しわかると、東南アジアの食べ物名をある程度解読できる。マレーシアの中国語について詳しいのが、"a baba  malay  dictionary"(William Gwee Thaian Hock, The Peranakan Association of Singapore, 2006"(アマゾンでは、発行年を2030にしているのがご愛敬)。烏の関連で言えば、okui(烏亀)は「ヒモ」の意味になるそうだ。標準中国語でも、チンピラ、ゴロツキなど同じ意味だ。

 

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