560話 台湾・餃の国紀行 21

 台湾雑話  その2



●英語がよく通じるので、驚いた。シンガポールほどではもちろんないが、日本とは桁違いに英語が通じる。流暢ではないが、片言以上の日本語を話す若者にもかなり会った。地方の小さな飯屋で、華語でいろいろ話しかけられたが、わからない。若い店員だったので試しに、「in English please」と言ったら、「日本語ならわかりますか?」。ちゃんとした日本語だった。日本語は学校で習い、つい最近、家族そろって日本観光をして来たんですよと、日本語で話した。
●あるコーヒーショップで、店の奥に店員の連絡用ホワイトボードが見えた。最初の1行目には、こう書いてある。
 きょおは10月22日(二)です。
 日本語の勉強を始めてうれしいのだろうが、おしい。「きょお」は「きょう」にしてほしいが、「う」と「お」は日本人でもややこしい。通りは「とおり」、総理は「そうり」。すべて、発音のまま「お」にしてしまえば、簡単なのに。「づ」と「ず」、「じ」と「ぢ」もややこしいので、無理やりでもどちらかに統一してしまえばいいと思う。日本語を学ぶ外国人のためだけでなく、日本人にとってもその方がわかりやすい。地は「ち」なのに、地面は「じめん」という理屈は、普通の日本人では説明できない。ややこしい説明を理解するよりも、わかりやすくするために統一すればいい。なお、ホワイトボードにある(二)というのは、星期二のことで、火曜日のことだ。日本語がわからない台湾人のためには、(火)では意味が通じない。
●外国で見かける日本語表記で、よくある間違い。日本人が手書きした場合でも判読が難しいのが、「ン」と「ソ」、「シ」と「ツ」、「い」と「り」などで、外国の日本語看板の文字にこうした字の誤りがある。日本語を学び始めたばかりの人にはなかなか理解できないのが、「はっきり」とか「しましょう」というようなときの、小さい「っ」や「ょ」だ。音引きの間違いも多い。スタートというようなときの「ー」を音引きというのだが、横書きで覚えると縦書きのときも、「ー」のように横線のままになっていることが多い。最近では、パソコンの自動翻訳によるむちゃくちゃな日本風文章も登場している。
 あるレストランの店頭に掲げられたメニューには、英語と日本語の両方の表記があって、日本語の部分を読むと、ちゃんとした日本語が印刷されているので、日本人が監修したのだろうかと思って読んでいくと、「あれっ?」と首をかしげたくなる文章があった。
 ・・・・バジルの風味があ
・・・・ベーコンに生
説明文が突然途切れているのだ。これでわかった。日本のどこかのレストランのメニューをコピーし、レイアウトの都合上長すぎるときは、適当に日本文を切ったのだ。グラフィックデザイナーにとって重要なのは、意味ではなく格好だから、こうなる。日本人に読ませるためのメニュー説明ではなく、台湾人向けの飾りなのだ。日本にも、Tシャツや紙袋やコマーシャルなどに、トンチンカンな英語やフランス語が数多くある。
●私がかつて中国語を習ったことがあるとは言っても、日本生活が長い台湾人留学生から1回2時間の授業を10回ほど受けたにすぎない。2時間のうち1時間は、台湾の日常生活の話を日本語で話してもらったから、勉強時間は半分しかなかったし、しかも36年も前のことだ。その後、中国語の復習をすることはなく、わずかにマレーシアや香港などで中国語の表示を読む程度だった。だから、台湾に来ても、当然、聴不憧(ティンプートン。聞いてもわからない)なのだが、毎日言葉のシャワーを浴びていると、だんだんわかるようになる。デパートでジャンパーを見ていると、店員が近づき(台湾では、店員がすぐ声をかけてくるからわずらわしい)、「ゼンゾーピー」という声が聞こえ、頭に「人造皮」という漢字が浮かんだ。人工皮革のことだ。食堂に入ってきたが、なかなか席に着かない人がいて、店員に向かってしゃべった言葉は聞こえないが、口の動きが「ワイタイ」と言っているのがわかる。外帯(持ち帰り)と言ったのだ。
●中国料理のコック見習いをやっていたときに、食べ物関連の中国語を少しは覚えた。だから、高級料理店の料理名はある程度はわかるのだが、食堂の料理となるといままでの知識ではまるでわからない料理が出てくる。食堂に行ってメニューを見て、どういう料理かすぐにわかるのは、3割か4割、なんとなく想像がつくというのが3割、あとの3割ほどはまるでわからないから、資料などを読んで勉強することになる。ガイドブックなどでもよくわからないのが、例えば「港式炒飯」というもの。香港式炒飯という文字の意味はわかるのだが、実態がわからない。そこで注文してみたら、ベーコンとキャベツが入った炒飯だった。確認のため、中国語版ウィキペディア「維基百科」で調べたら、港式炒飯には決まった姿というものがないようだ。だから、外国人にわかるわけはない。
http://zh.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%AF%E5%BC%8F%E7%82%92%E9%A3%AF
●テレビニュースのひとつ。北海道で、外国人旅行者のマナーが悪いので、中国語で注意看板が出たというニュースだ。北海道の農民が、花畑に入り込んで写真撮影をする観光客に困っている。その花畑に立てられた看板が、テレビの画面に映る。「私有地につき、立ち入り禁止」という意味の文句が中国語で書いてあるのだが、それが繁体字で書いてあるから問題だというのだ。中国語の文字は、古い書体のままの繁体字を使っているのが台湾や香港などで、中国では画数の少ない簡体字を使う。繁体字簡体字の解説をここではやらないので、気になる人は自分で調べてもらうとして、簡単に言えば、台湾で使う繁体字でその看板が書いてあるから、台湾人観光客に対して言っているに違いないが、そんなに台湾人はマナーが悪いのかという怒りだ。街頭インタビューは、「台湾人もマナーがよろしくないが、中国人ほどひどいわけじゃない」という意見が多く、台湾側が北海道の誰かに抗議をしたのかもしれないが、そのニュースの最後の映像は、繁体字の注意看板の下に、同じ文章が簡体字で書いてあった。