1903話 言葉は実におもしろい。地道に勉強する気はないけれど・・・ その14

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中国語、とりわけ台湾の中国語は日本人にとってもっとも解読しやすい言語だろう。中国語を学んだことがなければ、ひとことも聞き取れないだろうが、鉄道やバスの路線図は判読できる。わからない語は、辞書を引くことができる。タイ語ビルマ語の辞書を使えるようになるにはかなりの手間が必要だが、中国語なら、漢和辞典が使えれば、中国語辞書を引く勉強は要らない。食堂のメニューも、知っている料理ならわかる。どう発音すればいいのかわからなくても、内容がわかれば、メニューの料理名を指させばいい。

 私の場合、元中国料理店のコック見習いだから、料理名はある程度読める。読めるが、「よくわかる」わけではない。「シイタケとトリ肉の炒め物」とわかっても、具体的にどう料理してあるのかは、わからない。店によって違いがあるからだが、ありふれた料理なら、ある程度は想像がつく。

 わかるようで、わからない料理名もよくある。例えば、台北の裏通りの食堂のメニューに「港式炒飯」というのがあった。「香港風炒飯」という意味はわかるが、それがどういう姿と味をしているのか、皆目わからない。だから好奇心で注文してみた。テーブルに運ばれた料理は、ゴロゴロと角切りにしたベーコンとキャベツが入った炒飯だった。ちなみに、ご飯はパラパラではなく、飯の小さなかたまりがいくつもあった。

 香港風炒飯とは、なんだという疑問を解決するために、中国語のウィキペディア「港式炒飯」を調べてみた。それによれば、ナポリにはないナポリタンのように、香港に「港式炒飯」(香港式炒飯)なるものはないようで、台湾など香港以外でハムやソーセージを入れたり、ケチャップで味付けをしたりする炒飯のようだが、これぞ「港式炒飯」という定型はないようだ。

 台湾では、雨の日は外出せずに、1日中宿でテレビを見ていたかった。台湾のテレビは、基本的に字幕付きだから、映画やドラマでなくても、ニュースもバラエティーも字幕がつく。私は中国語の勉強は、コック時代にほんの少しやっただけだが、漢字の知識と想像力で、やさしい内容なら割と理解できる。多分、英語の字幕を読むよりも理解が早く深いかもしれない。英語の字幕はいちいち単語を読んでいるが、中国語の字幕だといくつかの漢字をまとめて目視することができるので、読み遅れることが少ない。ほんの少し中国語を学んだから読解できるのではなく、慣れと勘だ。私でなくても、日本人ならすぐに読めるようになる。要は、「読みたい」という熱意があるかどうかだ。ある程度はわかるから、1時間でも1時間でもテレビを見ていて飽きないのだ。

 台湾で判読散歩をしていた話は、このアジア雑語林の「台湾・餃の国紀行」で何度も書いているが、例えば、705話706話などだ。

 中国語と言っても、台湾や香港で使っている繁体字と中国で使っている簡体字の2種類あるが、中国に行く気はないので簡体字は覚えていない。想像すればわかる字もあるが、まったくわからない字も多いのだが、「そういう字は、どーでもいいや」という気なので、台湾の文字に親しんでいる。

 このように、日本人にとっては中国語は理解しやすい言語で、「多少は読める。困れば書けばいい」と思っている。旅行に使うくらいならその程度の中国語力でもいいのだが、「日本人にはわかりやすい中国語」の最大の問題点は、日本人は発音の勉強をちゃんとしないことだ。外国の中国語学校だと、初級入門編くらいだと日本人生徒が圧倒的に優秀なのだが、発音をおろそかにしているせいで、漢字が読めないから耳を頼りに学んできたほかの生徒にどんどん追い抜かれていくというのが、日本人生徒の多数派らしい。

 しかし、怠け者の日本人にも救いがあって、台湾の発音は日本人には聞き取りやすいのだ。「ハナにつく北京風発音」がないからだが、その詳しい説明は長くなるので省略する。台湾の中国語を知ってる人は、「そうそう」と、うなづいてください。