1949話 暑いというより熱い話 下

 

 今までの旅で、4月のタイよりもはるかに熱かったのは8月のスーダンだ。私が旅した時代は、スーダンはまだ分離独立前だから、ここでは南部・北部という言い方をする。スーダン南部は林があり、沼地があり、畑がある地域だが、北部に行くと沙漠が広がる。南部の町ジュバ(こんな小さな町が、のちに南スーダン共和国の首都になるとは驚きだ)から船に乗って、ナイル川を南下した。川の風に吹かれる気持ちのいい船旅だった。

 はっきりした記憶がないのだが、船で3日ほど過ごしたと思う。そのまま首都ハルツームに着くと思っていたのだが、途中で船から降ろされた。川が浅くなるから航行できないのかどうか、その理由はわからないのだが、情報を集めると、ここで船を降りてバスで首都に向かえということらしい。

 名を知らぬ町で一泊して、翌朝バスに乗った。ナイル川を離れると、風景は「いかにも」という感じの砂沙漠だった。そういう風景の中、数時間走ると、360度沙漠のなかに、大地のほくろのような丘があった。高さは数メートル程度だろう。一周歩いて1分もかからないような小さな「ほくろ」だった。何本かの木が立っている。オアシスというイメージからは遠いが、そこに小屋があり、峠の茶屋のように、旅行者の休憩所になっている。

 バスを降りた。とたんに、「焼かれる」という痛みを感じた。猛烈に熱いのだ。「バスはエアコンが効いているから涼しかったよな・・・」と思ったが、乗ってきたバスを改めて見るまでもなく、スーダンのオンボロバスにエアコンなどついているわけはない。それなのに、車内では暑いとはまったく感じなかった。昔から旅行記などで読んでいた体験だ。「あまりに暑い土地だと、自動車は窓を閉めて走る」という説明が事実だとわかる。「ああ、これなのか」。熱帯アジアの常識は、「暑ければ、窓を開けろ」であり、そもそも窓ガラスのないバスもある。乾燥地帯では、熱いなら、熱風が入らないように窓を閉めておくというわけだ。窓を閉め切ったまま走るバスの車内は、たしかに、暑くはなかった。

 町をぶらつくのが私の趣味だが、ハルツームはあまりに暑く、息苦しくなり、早々に宿に帰った。比較的涼しい(あくまで比較的だが)日影のある地の熱さは、どこにいても蒸し暑い地よりも過ごしやすいかもしれないと、暑気の中で妄想した。それでもやはり、とんでもない熱さだと寝苦しくなる。そんな夜は、ベッドシーツをもってシャワー室に行き、床にシーツを敷き、その上で服を着たままシャワーを浴びて、部屋に戻ってそのシーツの上で寝た。気化熱を利用した睡眠法だ。

 スーダンのことを書いていたら、ハルツームの北にあるオムドゥルマンに、ラクダ市を見に行ったのを思い出した。ナイル河畔の街だから、草原があったのを覚えている。

 話変わって、ヨーロッパ。

 「こんな暑いところはいや」と言ったのは、日本映画が好きだといった女子大生。スペインのコルドバのホテルでアルバイトしていた。ヒマそうな午後、しばらく世間話をした。

 「夏のアンダルシアなんか、何もしたくなくなるわよ。今は大学に通っているからしかたなくここにいるけど、卒業したら北部か、涼しい国に行きたいな」

その時は10月で、歩くとちょっと汗をかくという程度の気候だった。しかし、何年か前のことだが、同じアンダルシア州のセビージャ(セビリア)の10月はつらかった。私の街散歩は、道路を渡るのに忙しかった。日影側を歩くことにしているから、道路を曲がると、道を渡る。道路の両側に日影がないと、教会や公園の日影を探す。セビーリャで熱い数日を過ごし、鉄道で一気にマドリッドをめざした。

 列車がマドリッドの駅に入ると、ホームにいる人の姿が見えた。コートや羽毛ジャケットを着ている。マドリッドは、標高657メートル。冬はけっこう寒いのだ。2月に来たら、雪で飛行機が大幅に遅れたことがあった。

 現在はこの気象状況なので、マドリッドでさえ、夏はかなり暑い。8月のある週の気温を調べたら37度を超え、予報ではその後40度を超えそうだ。一方、今日のセビージャの最高気温は45度、コルドバは42度。ああ・・・・。

 暑いということで、いつも気になっていることを追加しておく。テレビのニュースで、「今日も、日本各地でうだるような灼熱地獄です」などと報じているアナウンサーがスーツ姿だ。「ひるおび」(TBS)の恵俊彰はいつもスリーピースだ。コメンテーターもスーツだ。その姿をユニフォームとしているのだろうが、それでは「地球温暖化」だの「省エネ」などといった報道はウソ臭くなる。同じTBSでも夕方の「Nスタ」は、アナウンサーは涼しそうな服装だ。「テレビでしゃべる人間が、スーツを着ているのは当たり前だろ!」と言いたがるおっさんがいるから、真夏でも厚着を強要されるのだろう。

 エアコンの設定温度を下げるより、テレビスタジオを始めオフィスなどでの、薄着キャンペーンをやった方がいい。