1971話 服が長持ちする理由 その3

 それまでの10年ほどは、初秋になると日本を離れ、晩春になると日本に戻るという生活をしていたので、日本の冬を長らく体験していなかった。だから、日本定住を決めた冬は寒さが身に染みたのだが、哀しいかな手持ちの冬服を着るには太りすぎていた。そこで、すでに持っている冬服を一気に捨てて、暖かそうな服を買い集めた。街を散歩していて、暖かそうな服を見つけると、「よし!」とついつい買ってしまい、冬服が一気に増えた。寒さ恐怖症のせいだ。

 ユニクロヒートテックを出せばすぐさま買い(2003年)、その後「極暖」、「超極暖」と立て続けにまとめ買いしてしまう。熱帯に慣れた身には、寒いのが怖いのだ。初めて羽毛布団を買ったのもその頃だ。

 Tシャツは、ヘンリーネックが好きだから、見つけたら買い、そのうちにヘンリーネックはほとんど見かけなくなり、しかたなくVネックにしたのだが、そのVネックも近頃めったに見かけなくなった。ネットでユニクロ商品リストを調べたら、Vネックシャツがまったくなかったこともある。ネットの情報では、「Vネックは下着に見えるからいやだ」という意見が若者に多いのだそうで、「へ~?」というしかない。

 そういうわけで、VネックTシャツも見かけたら、とにかく買うことになり、シャツが増えた。東南アジアで仕立てたシャツは、サイズ的にもう着られないものもあるが、高価なバティック地もあり、もったいなくて捨てられない。だから、まだタンスに詰まっている。秋から年の初夏まではGパンをはくから、薄くなって穴が開いた箇所はパッチワークで補修している。目立った経年変化はGパンだけだ。

 21世紀に入り、ヨーロッパを旅するようになり、服がまた増えた。秋のヨーロッパは東京の冬だという知識があり、実際、11月のアムステルダムで雪にあったこともあるので、秋のヨーロッパ旅行のバッグには、ヒートテックのシャツやネルシャツを入れ、寒さ対策にぬかりはなかった。それなのに、10月のヨーロッパは30度だ。ポルトガルでもチェッコでも、到着してすぐに半そでTシャツを買いに行った。これで、またシャツが増えた。

 店で入念に選んだ靴でも、ちょっと歩くと足に合わないことがあり、ベストの靴に出会うために次々に靴を買うようになった。散歩が好きだから、靴は重要だ。履きやすい靴に出会うと、その靴だけを履くようになる。履かないまま長年しまったままになっていたサンダルは、ゴムがボロボロに変質して、けっきょくゴミになってしまった。そういうことでもないと、靴を捨てることはない。服同様、昔と比べれば歩くことも減り、靴が傷まなくなった。服と同じように、靴も丈夫になったと思う。

 そう言えば、パンツの数も増えた。旅行にふさわしいパンツはどういうものかを考え、洗濯に便利なように「速乾性」を選んだ。1泊しかしない街で洗濯すると、朝までに乾かないという心配がある。その街からしばらく移動の日々が始まるのだから、ぜひともここで洗濯しておきたいが、「乾くかなあ」という心配を少しは解消してくれる速乾性ペナペナパンツを、まとめて買ってある。台北にいるとき、ショッピングセンターでユニクロを見つけた。「ここでパンツを買えば、帰国するまで洗濯しないでいいな」という悪魔のささやきが聞こえてきて、4枚買った。かくして、パンツが引き出しに詰まっている。ペナペナでも丈夫だから、なかなか現役を引退することはない。ゴムが伸びてしまって・・・というパンツには近頃あっていない。