1991話 最近読んだ本の話から その2

 

古本まつりで買ってすぐに読んだ本の話から始めるか。破格の安値だから買ったのは『世界でいちばん旅が好きな会社がつくったひとり旅完全ガイド』(TABIPPO、いろは出版、2017)で、文字が極端に少ないからすぐに読み終えた。

 この本はひとり旅をしたいなと思っている若者向けのガイドで、私は旅行文化の資料として読んだ。

 この手の本にありがちな啓蒙色はあるのだが、まあ、それはいい。これからひとりで日本を出るという不安だらけの若者に声をかけるなら、多少は「アニキ面(づら)」の文章になってしまうのはしかたがない。ただ、私の感想を言えば、旅に教育的効果や人生訓話的な効果を求める立場は支持しない。この本にも「旅の名言」がいくつも紹介されているが、旅を美化したり過大評価してはいけないと思っている。旅をしたことで、結果的にその後の人生が変わってしまうこともあるが、それは結果でしかない。ある本を読んで人生が変わったという人はいるだろうが、読書に教育的効果を求める主張にくみしない。ラーメンを食って人生が変わった人だっている。旅だけを過大評価してはいけないというのが、私の考えだ。

 この本に旅行者アンケートが載っている。「ひとり旅をしてどうだった?」という問いに、「100%が後悔していない」と答えているというのだが、どうだろう? 旅行者の中には、事件事故に遭遇した者や、病気などで緊急帰国とか、入院や拘束・投獄などいろいろアクシデントに出会った旅行者もいるだろう。周りの人たちに迷惑をかけ続けても気にしない旅行者もいる。今、「すべての人にとって、旅はつねに美しいなんて誰にも言わせない」なんていうフレーズが浮かんで、さて、ネタ元はなんだと思ったが思い出せず、あれこれ調べて30分、ああ、ポール・ニザンだったと思い出した。引用ではない。改ざんだ。まあ、旅の本のつながりというだけの無駄話でした。ついでにもうひとつ無駄話をする。この文章を書いたあと本屋に出かけ、『本を読むということ 自分が変わる読書術』(永江朗河出文庫、2015)を立ち読みしたら、ポール・ニザンを引用していた。そういう世代ですな。

 話を戻す。大学1年生で、外国に行きたいと漠然と思っているが、すぐ近くの親しい友人でひとり旅をした人はいないとなれば、パスポートやビザの話から聞きたいことはいくらでもあるだろう。こういう本はあってもいい。荷物のことも解説しているから、じっくり読む。

 「あれば便利というものは、なけりゃないでなんとかなるものだ」という昔からの格言(雑誌「オデッセイ」でよく使っていたコトバだ)で、確かにそうなのだが、個人差もあるし、実際に旅に出てみないと必要だったかどうかわからないこともある。

 つい先日、「旅行者の荷物に変化はあるのか?」というテーマで考え事をしていて、ネット情報を読んでいたところなので、こういう旅行入門書を買ってみたという理由もある。現在と30年前の旅行者の荷物の違いを考えた。かつてなかったのは、スマホと充電器やコードなど関連器具くらいだなと思ったが、もう少し違いがあるようだ。スマホがあるからカメラが一部のマニアがもっているだけのものになった。腕時計も目覚まし時計も旅の荷物ではなくなったようだ。私はスマホを時計として使っていないので、外国で時差が変わっていく状況では、スマホの時刻をどう調整していくのか知らない。飛行機の乗り換え、乗り継ぎなどの場合、スマホの時刻を空港の時刻に合わせておかないと、乗り遅れることになるかもしれない。旅日記やメモなどもスマホに書くなら、ノートも必要なくなる。読書用の本もガイドブックも電子ブックにすれば、印刷物を持たなくなったかもしれない。

 つい先日の日本のニュス。山歩きをしていた若者が遭難。地図やガイドをスマホに入れていたが、充電切れで、スマホが使えなくなって遭難というもの。遭難の連絡もできなくなった。いまは、航空券もプリペイドカードもスマホに入っていて、スマホのトラブルで使えなくなったという体験談も聞いたことがある。今年の夏、大学生を引率して外国に行った教授の話では、旅行中の最大にして最多のトラブルは、スマホに関連したものだったという。スマホは、旅のトラブル・メイカーでもあるのだ。