2017話 韓国文化

 2024年最初にCDデッキに送り込んだのは、昨年暮れに買っておいた“Beginners Guide to the World”だ。3枚組のセットで、アフリカ、アジア、中南米の音楽が42曲入っている。アジアが弱いが、それがヨーロッパ人の世界認識なのだとわかる。ヨーロッパにとってアフリカは近いがアジアは中東地域を除けばファーイースト(極東)なのだ。

 かつて、「ワールドミュージック」と呼んでいた音楽ジャンルは、それが欧米中心の植民地主義的な用語だということで、「グローバルミュージック」と言い換え、グラミー賞の部門名やアマゾンの音楽ジャンルも、「グローバルミュージック」に変わったが、そんな言いかえをしても、欧米人が自分たちの音楽をグローバルミュージックだと認めるわけもなく、欧米とくに英米音楽が「本流の音楽」で、それ以外の地域の音楽が「グローバル・ミュージック」、別の言い方をすれば「その他の音楽」だと思い続けているのだから、ワールドからグローバルへの言い換えは意味がないと私は思う。音楽をジャンルで聞くのではなく、「いいな、これ!」と感じる音楽を聞くのが、私の音楽生活だ。音楽だけの話ではないが、何であれ偏狭なマニアは好きではない。

 さて、身近に起こった2023年に知った衝撃の事実は、かの天下のクラマエ師が、なんと韓国ドラマの沼にはまっているということだ。まさか、韓国ドラマの話を彼とする時代が来るとは思わなかった。私は韓国の映画はある程度見ているが、ドラマは数十本見ているにすぎないので、師と語り合うレベルではないが、まあ、驚いたね。世の中何でもおこる。遠くない将来に、タサン志摩や和田明日香の影響を受けて、彼が料理人生を歩み始めても、もはや驚かない。インド料理エッセイなんか、読みたいね。そういう本なら、読者の需要はあるだろう。

 ラジオ番組に、元局アナふたりが出演していた。これまでほとんど交流がなかったようで、さぐりさぐり話を始めたが、「2023年の感動や驚き」という話題に入り、ひとりが韓国グループのコンサートに行ったことを話し出すと、ふたりの会話は盛り上がり、「いいよね!」と音楽やドラマの話が飛び交う。

 ああ、そうか。今の日本人中高年女性の共通語は「韓国文化」なんだなとわかった。日本の中高年男性の場合は、野球が共通語だ。仕事で会った人との雑談で、出身地の話になり、「ああ、甲子園に出た○○高校がある街ですね」ということからでも、話が広がる。タクシーに乗った途端、「いま逆転しましたよ」と運転手が話しかけてくる地域も少なくないらしい。

 中高年女性が好きな「韓国文化」にはポップミュージックとドラマと食文化が中心で、映画はあまり強く影響していない。日本の中高年女性にとって韓国文化が生きがいになっているという実情をよく表しているのが、東京ガスのCM「母の推し活」編だ。この90秒をご覧あれ。

 私は、往年の少女マンガや大映ドラマ的な大げさな愛憎劇ドラマ、貧富・血縁・憎しみ・嫌がらせ・裏切りなどが渦巻くドラマは苦手だから、近づかない。韓国でもその手の長編ドラマは若い層からは敬遠されているようで、短くておしゃれなドラマが増えているらしい。私は全20話程度の短いドラマは歓迎するが、アイドル登場のおしゃれなドラマというのは日本のものであれ韓国のものであれ、見ない。

 韓国ドラマを少し見ただけの経験で偉そうに言うと、歩留まりのいいのは「医者もの」だ。現代劇であれ時代劇であれ、医者ものは「まあまあ」のものが多い。「これは、ひどい」というのは数本あっただけか。私が韓国ドラマを見るおもな理由は、食文化観察のためだ。だから基本的には、ドラマの出来はどうでもいいのだが、それにしてもひどいのはやはり見るに堪えない。それでも、食事風景で、日本人のように茶碗を左手に持って食べているシーンを見ると、「韓国人は決して食器を持ち上げて食べない」なんていうご高説はウソだとわかる。お行儀が悪い行為であるにしろ、「ありえない」わけじゃない。

 このブログですでに書いたが、すべての面において最優秀ドラマ賞を送りたいのは、「恋のスケッチ〜応答せよ1988~」だ。テレビ局は、青春ラブストーリーとして紹介したがるが、いくつもの家族の現代史であり、1980~90年代の生活の細部がわかる名作なのだ。このアジア雑語林では、1383話以降長い連載記事を書いている。

 おまけに、1本も見ていないタイドラマの話をしておこう。

 コロナ禍があけて、東京在住のタイ語教師と4年ぶりに会った。中島マリンさんの教科書を使ったことがあるという人もいるだろう。そのマリンさんに声をかけた。

 「コロナの間に、まさかタイのテレビドラマが日本のテレビで放送される時代が来るなんて思わなかったでしょ」

 「そうなんだけど、BLばっかり!」

 「あれじゃ、タイはBLの国って思われるよね」

 「まあ、ホントなんだけどね。多いよ」