2018話 韓国のドラマと映画の話

 韓国の俳優イ・ソンギュンが死んだ。自死らしい。決して名優とは思わないが、記憶に残る作品に出ているから、名前と顔が一致する数少ない俳優だ。

 おそらく「コーヒープリンス1号店」と「白い巨塔」(どちらも2007)で、イ・ソンギュンの顔と名前を覚えた日本の韓国ドラマファンが多いだろうが、私はどちらも見ていない。私は、2010年の「パスタ」で、名前と顔が一致した。このドラマを見た理由は、もちろん食べ物が絡んでいるからだ。

 ソウルのイタリア料理店が舞台。イタリア帰りのシェフはすべて「本場通り」に改革しようとするが、ほかのスタッフは「韓国風」にしたいという軋轢が興味深い。その象徴がピクルスで、「イタリアじゃ、パスタにピクルスなんかつけない!」というシェフに、社長をはじめ客が「韓国人はピクルスなしではパスタは食えないんだ!」という抗争があった。

 そこで、漬け物なしでは飯が食えない韓国人というテーマに興味を持って、ソウルのレストランガイドの写真を点検したことがある。インド料理店やメキシコ料理店でも、料理の脇の小皿に黄色いものを発見した。タクアンだ。韓国料理にはキムチ、外国料理にはタクワンがつくのが韓国の常識なんだと知った。ドラマを見ると、そういうことがわかってくる。

 「パスタ」は、ドラマそのものもおもしろかった。イ・ソンギュンという俳優の顔と名を覚えたが、「谷原章介だな」と思っただけで、強い印象が残ったわけではない。顔が谷原と似ているだけでなく、印象に残る演技はないという点でも似ている。

 「パスタ」を見て印象に残った俳優はふたりいる。若い料理人役のコン・ヒョジンが出演するドラマは何本か見た。同じ食べ物つながりということで、ソウルでラーメン屋を開く物語「美男<イケメン>ラーメン店」(2011)は、まあ、大したことはないが、ほかのドラマは食べ物と関係はないが、よかった。こういうドラマだ。「サンドゥ、学校に行こう」(2003)、「ありがとうございます」(2007)、「最高の愛」(2011)、「プロデューサー」(2015)など。映画では「牛と一緒に7泊8日」(2010)、「ブーメランファミリー」(2013)、「女は冷たい嘘をつく」(2016)など。なかなかいい。

 「パスタ」の出演者で強い印象に残ったもうひとりの俳優は、イタリア料理店の社長役のイ・ソンミンだ。日本ではドラマ「ミセン 未生」(2016)の上司役で知られるようになったのだろうが、ドラマ・映画ともに出演作は数多い。チンピラから医者や大統領までこなし、人情派だったり情けない男だったり、演技の幅が広い。光石研のイメージが重なる。イ・ソンギュンとは、「パスタ」のほか、ドラマ「ゴールデンタイム」(2012)と映画「SP 国家情報局」(2019)で共演していて、どちらも見ているなあ。

 資料を調べれば、イ・ソンギュン出演の映画は「ひとまず走れ」(2002)以降何作も見ているようだが、記憶にない。日本では「パラサイト」(2019)が有名だろうが、私のベストは「最後まで行く」(2014)で、これは私の韓国映画ベスト10に入る名作だ。たいした個性のない警官の役がぴったりで、見ていてフィルム・ノワールのような感じがあり、フランス映画の翻案なのか思っていると、突然ドリフターズのコントのようなシーンもあり、ラストは「あっ!!!!!」なのだ。アマゾンなどで中古DVDを安く売っているので、興味のある人はご覧ください。日本のリメイク版もあり、WOWOWで放送していたが録画するのを忘れて見ていない。たぶん、つまらない。

 おまけ情報をひとつ。イ・ソンギュン=谷原章介のように、韓国のドラマや映画を見ていると、「似ているなあ」と思うことがあり、日本人の芸能人同士でも、「似てるなあ」がある。最近では笠松将綾野剛。キャップをかぶっていたら、区別がつかなかった。テギョン(2PM)を見ると、「これはどう考えても小泉孝太郎だな」と思って調べると大当たり。「調べると」というのは、soKKuri?で調べるということだ。これ、けっこう遊べます。