2037話 続・経年変化 その3

音楽 3 ムード歌謡とムード・ミュージック

 ふたたび、CDの大全集の話を続ける。

 ある日、「懐かしのムード歌謡」のCD大全集の広告を見つけた。ムード歌謡はキャバレーやカラオケでのデュエットというイメージがあり、苦手だと感じていたのだが、そうでもないらしい。例えば今、ネットで「永遠のムード・コーラス」(CD5枚組)を見てみたら、全90曲のうち、歌を知っているのは3割ほどしかないが、グループ名の8割以上は知っている。こんなに知っているとは思わなかった。テレビで歌謡コーラスを見たときは、長いドレスや揃いのスーツというスタイルのキャバレーやナイトクラブを意識して嫌っていたのだが、ラジオで聞いているうちに魅力がわかってきた。これは経年変化だ。

 私は、いわゆる洋楽好きだから、演歌よりも歌謡コーラスの方にまだなじみがあったのだ。。

 もともとキャバレーなどで、専属バンドとして演奏していたジャズやハワイアンやラテンのバンドで、歌手の伴奏もやっていた人たちがレコードデビューしたのが、歌謡コーラス・グループだ。例えば、内山田洋とクール・ファイブはジャズやラテンのバンドで、「ワッワッワッワ~」というバックコーラスはドゥワップだ。黒沢明ロス・プリモススペイン語で「いとこたち」の意味だが、いとこ同士ではないらしい)はその名でわかるように、ラテンバンドだ。和田弘とマヒナスターズはハワイアン(マヒナはハワイ語で月)だ。だから、コブシを回す演歌ではなく、外国の音楽の香りがするムードコーラスにちょっと魅力を感じたのかもしれない。

 ただし、ムード歌謡が大好きというわけではないから、ユーチューブで聞いても、CDを買い集めることはない。ムード歌謡の世界に一歩踏み出せないのは、歌詞の世界とキラキラ光る衣装と、ファルセット(裏声)のせいかもしれない。フォーシーズンズとか、テンプテーションズのようなポップさを求めてもしょうがないのだが、バンドのメンバーたちは、実は洋楽をやりたかったのではないか。志村けんは、ブラックミュージックの大ファンだった。歌謡曲をやりたくて、ギターやピアノやドラムを習った人は多くないだろう。

 ムード歌謡のCDは1枚も買っていないが、ムード音楽のCDはかなり買っている。ムード音楽はのちに「イージーリスニング」と呼ばれるようになり、多くは演奏だけで歌はない。私が買ったことがあるのは、マントバーニ、フランク・プールセル、ポール・モーリア、レイモン・ルフェーブル、ビリー・ボーン、バート・バカラックミシェル・ルグランなど数多い。

 若い時は、ムード音楽を積極的に聞くことはないと思っていたが、考えてみれば、小学生時代から映画のサウンドトラックが好きだから、実はイージーリスニングに親しみを感じていたのだろう。1960年代から70年代には、ラジオの洋楽ベスト番組には、必ずといっていいほど映画音楽がランキングしていた。「いそしぎ」とか「エデンの東」だの、「帰らざる河」、「ララのテーマ」(ドクトル・ジバゴ)など名曲の名を挙げるときりがない。寒い季節もスキーも大嫌いなのに、「白い恋人たち」(フランシス・レイ)を聞くと、暖かい気分になる。この映画も好きだ。十数年前までは、冬になると毎年ラジオから流れていた。夏なら「夏の日の恋」(パーシー・フェイス)や「浪路はるかに」(ビリー・ボーン)などを毎年耳にして、いつの間には曲名を覚えた。それ以後、何回聞いても耳タコにならない。10代から20代に、文化放送の「S盤アワー」(1952~69)やFM放送で「ジェット・ストリーム」(1967~現在)をよく聞いていたから、この番組でいつも放送しているムード音楽(BGM)に親しみを感じているのだろう。経年変化という話題に沿うと、ムード音楽は、少年時代は「あまり気にならない音楽」から、「なんとなくいい」に変わり、中年以降は「なかなかいい」に変わっている。「映画音楽大全集」は何セットか買っている。

 もし、大好きな映画音楽トップ10を選ぶなら、確実に入りそうなのは「ひまわり」(ヘンリー・マンシーニ)と「おもいでの夏」(ミシェル・ルグラン)だな。もちろん、音楽だけじゃなく、映画そのものも大好きだ。