14話 1960〜70年代の旅の本 白陵社出版リスト


  日本人が自由に海外旅行ができるようになるのは、1964年からだ。それまでは、基本的には公務か業務の渡航しか認められず、あとは留学と移民の渡航だっ た。64年に制度上は海外旅行は自由になったけれど、まだ格安航空券などなく、船賃も高く、日本円の価値は低かったから、実際には金持ちしか海外旅行を楽 しめなかった。70年前後になって状況が変化するのは、シベリア経由でヨーロッパに安く行くルートが日本でも発売されたことと、ジャンボ機の導入によって 航空券に大幅な団体割引きが適用されたからだ。
 その当時、交通公社や実業之日本社ブルーガイド)のガイドブックとは違う旅の本を多数出版していたのが白陵社だ。60年代から70年代に個人旅行を始 めた人にはなじみがある出版社名だろうが、大方の人にはすでに忘れ去られた存在だろう。そこで、白陵社の出版リストを紹介してみよう。当時の旅行事情や旅 行書事情もわかるので、日本人の海外旅行史に興味がある人には参考になるだろう。この出版社が旅行書を出していたのはわずか8年ほどのようで、74年以降 の白陵社の歴史はわからない。
 外国に行きたいと思っていた当時の日本の若者に与えた影響は、けっして小さくないはずだ。私自身の体験でも、初めて外国に行くときに参考にしたのが、 『若い人の海外旅行』(69年)や、『インド教養旅行』(73年)などだった。現在のレベルと比較すれば、けっして高い内容の本ではないが、とにかくでき るかぎり安く日本を出たかった若者たちにとって、具体的な情報を与えてくれたほとんど唯一の本が白陵社の本だった。
 以下、私が調べることができた出版リストを書き出しておこう。

1966『海外旅行と海外生活』(水野潤一)
   『世界のみやげと一流品』(水野潤一)

1967『ヨーロッパ教養旅行』(水野潤一)

1968『続 ヨーロッパ教養旅行』(水野潤一)
   『ヨーロッパひとりある記』(久保田弘子)

1969『スチュワーデスの世界』(トルーデイ・ベイカー、レイチェル・ジョーンズ)
   『世界の祭りと年中行事』(内山寛)
   『中近東・アジア教養旅行』(紅山雪夫)
   『東南アジアひとりある記』(平岩道夫)
   『民宿ヨーロッパの旅』(杉田房子)
   『ヨーロッパ鉄道の旅』(山本克彦)
   『若い人の海外旅行』(紅山雪夫)
   『私の見たヨーロッパ』(住安国雄)
   『アフリカ』(竹村健一

1970『四十カ国アルバイトヒッチ』(長坂是幸)
   『世界の空港と都市』(水野潤一)
   『800日間世界一周』(広瀬俊三)
   『ヨーロッパ自動車の旅』(加藤保生)
   『若い人のアメリカ旅行』(アメリカ国立学生旅行協会編)
   『私の見た中南米』(住安国雄)
   『イタリア教養旅行』(水野潤一)
   『休婚旅行世界一周』(芦沢倶子)
   『サラリーガールのヨーロッパ旅行』(服部はる子)

1971『世界の美術館』(貝原幸夫)
   『台湾・香港・マカオひとりある記』(久保田弘子)
   『誰でもできるアメリカ英語生活』(おおつかまさじ
   『アメリカ就職奮闘記』(平岡陽子)
   『1日10ドルのヨーロッパ』(おおのはるみ)
   『一番近い韓国旅行』(近森節子・岡本俊一・景山裕一)
   『インド・ネパール。セイロン』(紅山雪夫)
   『唖のシュンコの旅日記』(江村駿子)
   『海外旅行失敗談』(白陵社編)
   『300万人が待っている』(トルーデイ・ベーカー、レイチェル・ジョーンズ)

1972『アメリカ・バスの旅』(山本克彦)
   『沖縄・日本ヒッチハイク』(矢代雅雪)
   『これからの海外旅行』(ボブ・ワトキンス、ジョアン・ワトキンス)

1973『スイス教養旅行』(会津伸)
   『スペイン・ポルトガル』(島田由起子)
   『アメリカ語学留学と米会話』(おおつかまさじ
   『インド教養旅行』(朝野明夫)
   『オーストラリアとニュージーランドタヒチ・フィジーサモア』(小島豊徳)
 これ以降、不明。