24話 こんな本はいやだ(1) 

 厚い本

 通常、単行本の原稿量は400字詰め原稿用紙にして400枚から500枚くらいだろう。800枚とか1000枚もあると、2段組にするか、上下2巻にしたりする。
 原稿量が多くなれば本は厚くなり、少なければ薄くなる。それが自然なのだが、薄いと「高い」という印象を与え、書店の棚でタイトルが読みにくくなるということもあって、無理やり厚くすることがある。そのテクニックは次のようにやる。
・文字を大きくする。
・字間(文字と文字の間隔)をあける。
・行間(行と行の間隔)をあける。
・紙面の上や下に余白をつくる。
 こういうデザインにすると、どうなるか。よく言えば老人用大活字版だが、そういう意図で作成した本ではないので、本をあけると幼児向けの本のような印象を与える。
 私がいままでに読んだことがある本で、記憶に残る駄本といえば、フレデリック・フォーサイスの『ハイディング・プレース』だ。カネ欲しさにでっち上げた 愚作だ。この本は、内容がスカスカというだけでなく、原稿量が少ないから児童書のように紙面がスカスカなのだ。字が大きく、行間がスカスカだ。読みやすい ことはたしかだが、味気ない。
 たまに昔の新潮文庫岩波文庫を書棚から取り出すことがあるが、ページを開いてビックリすることがある。活字が小さく、ビッシリ詰まっているのだ。中学 生でよくこんな本を読んだものだと、自分のことなのに感心する。あれだけ小さいと、もはや読む気がしない。だからといって、活字が大きければいいというわ けではない。ちょうどいい大きさというものがある。
 見た目がスカスカにならず、しかも厚い本のように見せるテクニックは、紙を厚くすることだ。紙は、基本的には厚くなればそれだけ高価にはなるが(正確に は重くなるほど高くなる)、とにかく本は厚くできる。150ページの本も、紙を厚くすれば250ページくらいかと錯覚する厚さになる。
 そういう本が、嫌いだ。両手でページを押さえておかないと読めないのだ。しかも、しっかり押さえようと力を入れると、「バッシッ」とばかりに本がこわれる。コピーをとるときにも、この手の本はこわれやすい。
 写真をきれいに見せたいという意図なのだろうが、紙面がテカテカと光っている本も、読みにくいからいやだ。明朝体以外の書体で組んである本も、読む気を失う。