カラー写真
むかし、そう1960年代でも雑誌のカラーページの色はくすんだ感じだった。映画はまだ「カラー」より「総天然色」という言葉で宣伝している時代だった。「総」というのは、映画の一部がカラーになる「パートカラー」ではなく、映画全編がカラーという意味だ。
その後、カラーページはめざましく鮮やかになっていった。タイでは80年代では、色が汚いカラー写真の雑誌もあったが、90年代に入って格段にきれいになった。多分、ベトナムやカンボジアでは、まだ薄汚れた感じのカラー写真が普通だろうと思う。
ところが、ここ数年の日本の出版物で、カラー写真がひどく汚いものが目につくようになった。気がつきました? 初めは超低予算の自費出版物だろうと思っ たが、版元は中堅のちゃんとした出版社などだ。そこで、次の推理は、素人が撮影したカラープリントを使っているから色が汚く、コントラストがおかしいのだ ろうと思った。それも原因のひとつだが、カラープリントを使ったものでもそれなりに色がでている例も知っているから、この推理は必ずしも当たらない。
三番目の推理は、デジタルカメラ原因説だ。デジタルカメラの性能が悪いにもかかわらず、その便利さから多用し、結果的にひどい色のカラー写真を本に載せ ることになる。私はデジタルカメラを使ったことがないので、こういう説を考えてみたのだが、ある編集者に話すと、それは冤罪だそうだ。
安いデジタルカメラでも、その性能は高く、写真を単行本で小さく使うくらいなら、従来のフィルム式カメラと遜色ないという。それならば、汚い写真の犯人は誰だ。
その編集者によれば、根本的な原因は低予算にあるという。
「ぴあ」などをはじめ、雑誌はカラーページが豊富でしかも価格が安いのが普通になると、活字が詰まっただけの単行本はなかなか売れないと考える。だか ら、単行本にもカラーページをたっぷり入れたいのだが費用がかかる。制作原価がとてつもなく高くなる。カラー写真の製版料は高いので、印刷屋に依頼せずに 編集者が社内のコンピューターを使ってやるようになった。高度な技術をもった人がやればきちんとできるのだが、未熟な者がやると、色調がおかしいカラー写 真が印刷されてしまうというのだ。
カラー志向と低予算が原因で、日本の出版物は40年前に逆戻りしてしまったのである。