44話 旅行記を書いた若者たちのその後(2)


 前回に引き続き、食文化の研究会での話。
 西澤さんと、1970年代の若者の海外旅行の話を少しした。
旅行記では、『おまえも来るか! 中近東』というのもありましたね」
 私がそういうと、西澤さんも「ああ、ボクも買いましたよ」といった。彼とは一歳違いだから、ほぼ同じ時代に同じようなことをしていたのだとわかった。
 いままで私たちの話をそばで聞いていた歴史学者が、「その本、高校時代の友人が書いたんだよ」と、話に加わってきた。現在は旅行とはまったく違う分野に いるふたりが、国会図書館にもないウルトラマイナーな 2冊の旅行記を知っているというだけでも不思議なことなのに、これはいったいどういうことだ。3人いて、たんなる読者というのは私だけだ。
 『おまえも来るか! 中近東 一日一弗の旅』(まるこぽーろ旅行団、まるこぽーろ旅行団出版局編、1971年)も、『旅の技術 アジア篇』同様、紀行文 に情報ページがついたものだが、その情報たるや、現在から見ればまことにおそまつではあるが、当時は団体旅行者用の観光ガイドさえやっと本格的に出版され 始めた頃だったから、個人旅行者が欲しがるバスや安宿の情報がでているこの本を、溺れる旅行者はワラをもつかむ思いで買ったのである。「地球の歩き方」を 出しているダイヤモンド・ビック社の社長である西川敏晴さんも、この本を買ったといっていた。数は少ないとはいえ、70年代始めに海外個人旅行を計画して いた若者は、なんとかしてこの本を入手したらしい。だから、自費出版でありながら、翌年に2刷になっている。
 ちなみに、私はこの本を神田の古書店の均一台で、偶然見つけた。定価540円で、売価は150円だった。
 食文化の研究会で、この2冊の旅行記の話をしてから1年ほどたったころだろうか、ライターの北尾トロ氏が経営するインターネット古書店「杉並北尾堂」の ホームページを読んでいたら、旅行書専門のネット古書店が新しくできたという紹介文があった。さっそく、その「旅好堂」というサイトを覗いてみた。
 書籍目録のアジアコーナーを点検すると、件の『おまえも来るか! 中近東』が3000円の値段で売られていた。ネット古書店でその書名を目にするのは初めてだ。そして、本の説明文を読んで、びっくりした。


 森本たけし他(まるこぽーろ旅行団出版局)1972,2刷 ¥540 程度B● 何を隠 そう、私メが団長で作った、本邦初(世界初?)のアジアハイウェイのガイドブック。イスタンブールからネパールまで陸路で帰った日本人バックパッカー数名 が旅日記を持ち寄り、自費出版した。本を車に積んで鹿児島まで営業したのも懐かしい思い出だ。当時の、黒崎、岡崎、松村、元気か?

 旅好堂の経営者である森本剛史氏は、旅行者からサラリーマン生活のあと、トラベルライターになったという経歴らしい。