ワールドフォトプレスのガイドブック
1970年代、海外旅行のガイドブックといえば、交通公社と実業之日本社が双璧だった。 単発か、数冊止まりのシリーズはいくつもの出版社から発売されているが、まとまった冊数が出ていたものといえば、ワールドフォトプレスの「ワールドトラベ ルブック」だけだろう。双璧の2社と比べると、垢抜けないデザインだが、本によってはこの双璧よりも実用に徹しているから、こまごました情報が詰まってい る。それが、今、貴重な資料となっている。たとえば、『タイの旅』には、バンコクのイラストマップがついていて、改訂版が出るたびにイラストも書き直され ている。だから、1970年代末のシーロム通りやラチャパロップ通りにどんな店があったかが、よくわかるのである。
点数があまりに多いので、アジアの旅行ガイドだけを年表風に書き出してみよう。ふたたび繰り返すが、このリストはあくまで国会図書館の蔵書リストであっ て、出版社のものではない。「出版年表がもしあったら。見せていただきたい」とワールドフォトプレスに電話したら、「そういうものはありません」というこ とだった。いつ、どんな本を出したか、当事者の出版社でもわからないのだ。だから、国会図書館の資料を使うしかないのだ。基本的には初版を取り上げるが、 初版がわからないものは改訂版を書き出す。
ちなみに、手元の『インドネシアの旅』の1986年版に載っているリストによれば、『ハワイの旅』から『ソ連・東ヨーロッパ』まで26巻出版されているとわかる。
1972 『香港・マカオの旅』
『韓国の旅』
『シンガポールの旅』
『最新中国の旅』
『最新東南アジアの旅』
1973 『インドの旅』
『ポケットガイド 南ベトナム』
『ポケットガイド 台湾』
『ポケットガイド バンコク』
1976 『インドネシアの旅』
『中近東・アフリカの旅』
1979 『マレーシアの旅 改訂版』
『インド・スリランカの旅 改訂版』
『タイ・ビルマの旅 改訂第6版』
1980 『フィリピンの旅 改訂版』
ちょっと解説を加えておくと、1972年と73年に出版された14冊は、発行がワールド フォトプレスで、発売は三修社となっている。74年にガイドブックの出版はなかったのか、あるいは、たんに国会図書館に保管されていないだけかわからない が、とにかく、74年は空白で、75年の『台湾の旅 改訂3版』以降は、発行・発売ともにワールドフォトプレスになる。
アジア旅行に多少なりとも興味のある人なら、1972年の『最新中国の旅』が気になるはずだ。このガイドブックのサブタイトルは、「パンダちゃんから今 日の中国まで全ガイド付き」となっている。1972年といえば、日中国交正常化の年で、パンダが日本にやってきた年でもある。田中角栄、周恩来、芧台酒、 熱烈歓迎などがキーワードの年だ。
だから、それに便乗した企画だろうが、中国旅行の自由化にはまだほど遠かった。親族訪問や友好団体の親善旅行などが細々と催行されたが、交通や宿泊施設などの不備が多く、中国は、旅行するにはまだ早すぎた。
その証拠に、国会図書館の蔵書では、1972年と73年の2年間に発行された中国のガイドブックは、この『最新中国の旅』、たった1冊だけである。
1973年の3冊の「ポケットガイド」もわからない。私の手元には『タイの旅』(1973年初版発行 1975年改訂第3版発行)があるが、そもそも 『タイの旅』(1973年初版)というのはなかったと思われる。『ポケットガイド バンコク』が75年に『タイの旅』に変わり、間もなく『タイ・ビルマの 旅』に変わっている。
書誌学や図書館学の基礎も学んだことはないが、ガイドブックの奥付けというのは一筋縄ではいかない代物なのだ。