愛読者カード
新刊を買うと、愛読者カードが挟み込まれていることがある。かつてはよく書いたのに、最近あまり書かなくなったのは、著者や編集者に感謝の気持ちを伝えたいと思うような本に、ほとんど出会わないからだ。
愛読者カードには、「この本を何でお知りになりましたか」というアンケート項目が必ずある。出版社によって内容はいくぶん違うが、だいたい次のような選択肢が並んでいる。
1.新聞の広告で(新聞名 )
2.雑誌の広告で(雑誌名 )
3.新聞・雑誌の紹介記事を読んで(新聞・雑誌名 )
4.テレビ・ラジオの番組で(番組名 )
5.書店で現物を見て(書店名 )
6.人に勧められて
7.小社からの案内で
8.その他
出版社によっては、「インターネット情報で」という項も入っているだろうが、私の手元にあるいくつもの愛読者カードでは、そういう選択肢は見つからなかった。
私の場合はどうだろうかと考えてみた。本はどうやって探しているのかという話だが、これはなかなかに難問だ。各項目ごとに考えてみた。
1. 新 聞 の 広 告 で
一日のうちで、もっとも好きな時間は朝食のときだろうと思う。子供のときから朝食を抜いたことがない。子供のころはあわただしい朝だったが、年中半失業 状態のライターになってからは、時間はたっぷりとあり、「あわただしい朝」はなくなり、毎朝1時間以上かけて朝ご飯を食べている。とくに手のこんだものを 食べているわけではない。トーストとサラダとコーヒーだけである。サラダは数日分まとめて用意しているから、5分もあれば、朝食の準備は終わる。
机に朝食と新聞を置き、ラジオのスイッチを入れて、朝の楽しい時間が始まる。新聞で毎日確実に読むのが、出版広告だ。雑誌の広告にも目を通すが、その広 告につられて雑誌を買うことはほとんどない。そもそも雑誌をほとんど買わないからだ。書店で立ち読みもしない。本の広告はていねいに読み、「ほほう、そん な本が出たか……。今度買おうか」などと思うものの、本によっては書名や著者名をメモしておかないので、書店であたふたすることがある。
書店員のエッセイに、トンチンカンな書名を口にする客がいるという話がよく出てくるのは知っているから、そういう客と同じことはしたくないと思い、結局 その日は本を買えずに帰宅する。自分の記憶力を過信していると、こういうあわれな結末を迎えることになるのだが、それでもメモをとらないのは、その本が有 名な著者のものであったり、大出版社から出た本だから、「きっと平積みになっているから、すぐ探せるだろう」と予想するところに問題があるらしい。「忘れ るのは、歳のせいでしょ」などと指摘したがる人もいるかと思うが、忘れ物が多い小学生はいくらでもいるのだから、これはおっちょこちょいが原因だと思う (思いたい)。
「読みたい」という欲求が非常に強い本は、さすがの私もメモをする。後日、書店の棚に立ち、バッグから手帳を取り出そうとして躊躇する。書店でバッグを 開けたら、万引きだと誤解されそうだ。万引きしなければ、もちろん問題にならないのだが、書店員に疑いを持たれるのがいやだから、レジ近くでバッグを開け ることがある。
万引きで思い出した。ある日出かけたときに、途中で書店に寄った。私としては珍しく読みたい雑誌を見つけたのだが、バッグに入るかどうかわからない微妙 な大きさだった。これから何カ所か巡る予定だから、手に雑誌を持ったままなのは嫌だ。バッグに入ったら買おうと思って、バッグに入れようとしていてハッと した。バッグに入れたら万引きじゃないか。アブナイ・アブナイ。
出版広告でもっともきちんと読むのは、もしかすると新書の広告かもしれない。昨今は新書の出版ラッシュで、新書は雑誌のように次々に出て、すぐ消える。 だから、出版時にチェックしておかないと、知らないうちに消えてしまう。私は基本的に小説は読まないから、新書や選書のチェックは重要なのである。
毎日、新聞の出版広告を読んでいると、レイアウトだけで、どこの出版社のものかわかるようになってくる。平凡社と筑摩書房のものがわかりやすいと感じるのは、その社の本に興味があるからだろう。