220話 うれしいが、くやしいファーストフードの本 その1



 書店で平積みになっていた派手な表紙の『ファーストフードマニア Vol.1 中国・台 湾・香港編』(黒川真吾・田村まどか・武田信晃、社会評論社、2008)を見かけ、手にとって0.5秒で購入を決めた。名カタログ『コーラ白書』と同じ版 元じゃないか。いいかもしれないとひらめいたのだ。
 そこで、まずは『コーラ白書 世界のコーラ編』(中本晋輔・中橋一朗、社会評論社、2007)を紹介しておこう。この本は、間違いなく名著だ。著者が買 い集めたコーラの写真に解説がついている。コーラのビンや缶のコレクターはいるが、ふたりの著者は集めるだけのコレクターではなく、分類し、できるかぎり 分析し、解説を加えている。私はコーラ類はあまり好きではないので、ほとんど飲んだことはないのだが、比較文化という意味で、「比較コーラ論」となる本書 のすばらしさはよくわかる。なにがすごいかといえば、コレクションの幅の広さと同時に、できるかぎり現物を飲んでいるのだ。缶だけ集めているコレクターと はレベルが違う。
 例えば、ビルマの「Royal Cola」について、こう解説する。長いので以下は、引用ではなく概要。

 発売元は、ミャンマー工業省傘下の国営食品メーカー。 Coca−Colaを意識させるロゴとグラフィックだが、廉価コーラを連想させる。原材料に「濃縮コーラ」とある。これは正体不明だが、どこかからコーラ の原液を買っているということだろう。その味は、チューペット(チューブに入った氷菓)のコーラ味と同じ。

 コーラは刻々と変化する商品なので、時間経過もちゃんと調べている。例えば、香港では、 返還前と返還後で、どう変わったかを調べているし(味に関しては、それほど大きな変化はないそうだ)、韓国のコカコーラ03年にデザインを変えたことに言 及している。韓国のコカコーラは、甘味の強さとまろやかさでは、世界のトップクラスだそうで、しかし酸味はほとんどないそうだ。アスパルテームや、アセル ファムカリウムといった人工甘味料の説明もある。食品工業も国際経済も視野に入れて書いている。すばらしい目配りだ。
 コーラはほとんど飲まない私には、味のことを言われても、「はあ、そうですか」としか言えないし、味は個人差や環境の違いで評価がかわりやすいが、それでもできる限り飲んで、調べてやろうという意気を感じる。
 コツコツと調べる努力などせずに、印象だけで語りたがる人は、こういう実証的な文章を、「コイツら、オタクだよなあ」と嘲笑しがちだが、調べもしないそ ういうヤツラこそ、あざ笑ってやろうと思う。きちんと調査をせず、資料も読まないヤツは、たとえ大学教授の肩書きがあっても、バカにしてやろう。
 この『コーラ白書』をまず絶賛したのは、同じ出版社から出た『ファーストフードマニア』を読んでみたら、その内容のレベルが大きく落ちているとわかった からだ。おいおい、どうしたんだい。書き手の力不足だけがその理由じゃないだろう。編集者はどうしたんだという気がしたからだ。
 以下、つづく。