874話 化粧の話から病室と加湿器


 テレビで小津安二郎の「晩春」(1948年)を見た。ウィキペディアによれば評判の高い映画らしいが、私はおもしろいとは思えなかった。あまりおもしろくないと思いながらも最後まで見たのは、1948年の日本を見たかったからでもある。古い映画はタイムマシーンでもある。
 驚いたことに、もうすでに「戦後」だった。戦争の影がほとんどないのだ。買い出しで苦労したという過去の話(昭和24年で、もう過去なのだ)や、京都に来たのは「戦後初めて」といったセリフがあるだけで、小料理屋はやっているし、もはや物不足という感じはまったくしない。大学教授の家には紅茶があった。
 あの時代の社会風俗という話題とは別に、父親の笠智衆とその娘原節子が京都旅行した日の夜、父娘は布団を並べて寝るのだが、すでに布団に入った娘の原節子は、濃い化粧をして太いつけまつげをしている。これは映画だからリアリズムを無視したのだろうかと考えていて、女優の化粧のことを考えていた。
 ドラマや映画でも、女性入院患者の化粧が気になることがある。映画の場合は化粧をしていないようなメイクをして入院患者らしい顔つきになっていることが多いが、連続ドラマだと手術後の顔が、通勤しているときの顔と変わりなしという顔つきの役者もいる。
 そんなことを考えていたら、病室のことが思い浮かんだ。ドラマや映画では、日本でも韓国でも、不思議なことに病室にはその患者しかいないというのがほとんどだ。4人部屋なのに、同室の患者たちとの会話シーンがない限り、ドラマで重要な役割を果たすその人物ひとりが病室で寝ている。これはドラマ演出の文法といったものがあるのかもしれないと思えるほど、常識のようになっている。ドラマなのだから、他の患者のプライバシーなど関係ないのだから、セリフのない患者が寝ていればいいのだが、なぜかそうはならない。
 病院といえば、韓国ドラマをある程度見ている人は、「なぜ病室に加湿器があるんだろう」という疑問を持つようで、私もそのひとりなのでネット検索してみれば、同様の質問が出てくる。病院だけでなく、家庭でも加湿器をよく使うらしい。
 「韓国は湿度が低い。だから加湿器を使う」という回答なのだが、本当にそうだろうか。韓国並みの湿度の国はいくらでもある。そういう国でも韓国と同じように加湿器を使っているだろうか。統計資料などなしにただの勘で言うのだが、「韓国人は加湿器が必要だ」という信仰あるいは信念あるいは思い込みのようなものがあるのではないか。加湿器そのものには罪はないが、加湿器の普及によって、加湿器殺人事件ともいえそうな大事件が起きている。誰かが、「湿度が高いと健康にいい」とか、あるいは「乾燥は体に悪い」とか言って、室内の加湿を勧めたのだろうか。
http://www.huffingtonpost.jp/namkoong-ihn/reckitt-benckiser-korea_b_9837074.html