1389話 「応答せよ」と韓国現代史 その7

 半地下と屋根部屋

 

 韓国映画「기생충」は「寄生虫」という意味で、英語のタイトルは「Parasite」。日本では「パラサイト 半地下の家族」というタイトルになった。半地下の部屋での生活が貧困の象徴として描かれていて、日本ではこの映画で「半地下」に注目が集まっているが、韓国の映画やドラマをよく見ている者には、半地下も屋根部屋も貧乏生活の象徴としてなじみの存在だ。「韓国の住まい選び」(KONEST)に半地下や屋根部屋の写真もある。

https://www.konest.com/contents/korean_life_detail.html?id=1826

 韓国の半地下住居は防空壕として作られた空間が住居として転用されたようだが、地下倉庫の転用でもあるかもしれない。半地下の部屋というのは、例えばロンドンなどにいくらでもあり、ドライエリアを作れば快適な空間にもなるのだが、韓国では貧困の象徴らしい。

 韓国には屋根部屋というのもある。韓国語ではオクタッパン(옥탑방 。漢字なら屋塔房)という。鉄筋中層アパートの屋上部分にあとから作った部屋で、シャワーはない。トイレはついている場合と、階下の共同トイレを使う場合もあるようだ、夏は暑く冬は寒いので、家賃は安い。

 私の想像では、韓国のドラマでは屋根部屋が多く登場し、映画では半地下が多く出てくるような気がする。屋根部屋は構造上屋上庭園があるので、日当たりはよく、広い空間があり、晴天や星空のシーンを作ることができるから、ドラマの場面として使いやすい。「屋根部屋のプリンス」や「シークレット・ガーデン」、「主君の太陽」など、主人公が屋根部屋に住んでいる設定のドラマはいくらでもある。

 一方、半地下はパンジハ(반지하、漢字で半地下)だ。半地下の部屋は映画で登場することが多いような気がする。日当たりが悪い閉鎖的な空間が、悲惨な暮らしぶりをより際立たせる。半地下がよく出てくる映画と言えば、すぐに頭に浮かぶのは名作「息もできない」(ヤン・イクチュン監督・主演、2009)だ。半地下部屋が舞台だと、犯罪のイメージが強く、とてもラブコメにはなりにくい。ややコミカルに半地下生活を描いているのは、就職戦線を勝ち抜こうとしている若い女と、なさけない中年のチンピラが、たまたま半地下部屋で隣り合わせになるという映画、「僕のヤクザみたいな恋人」(2010)があった。これ、ちょっといいです。半地下の部屋のシーンも出てくる予告編が、これ。

https://www.youtube.com/watch?v=yWBfio5bvMM

 高校2年生のソン・ドクソンの弟、ノウルのあだ名は「半地下」だ。ドラマ「応答せよ 1988」に登場する5家族のひとつ、トクソンとノウルの一家が半地下に住んでいるからだ。この一家は、もとはちゃんとした家に住んでいたのだが、銀行員の父ドンイルが友人の借金の保証人になった結果、友人の借金返済のために貧乏生活をせざるをえなくなり、半地下の部屋に移ってきた。風呂はない。トイレな地上のものを使う。寒い冬、外のトイレから戻ってきた父は、「ああ、トイレがある家に住みたい」と叫ぶが、半地下生活を悲惨に描いてはいない。「1日も早く、こんな生活から抜け出したい」というのが家族の願いであっても、それなりに生活を楽しんでいるという描き方をしている。

 元気いっぱいの高校生の娘ソン・ドクソンのおかげで、「応答せよ 1988」は悲惨な半地下生活にはなっていない。

注:韓国語は濁音が頭に来ないから、ソン・ドクソンという名前を姓をつけずに呼ぶと、ドクソンではなくトクソンになる。ソ・ジャングムがチャングムになるのと同じだ。

追記:書くのを忘れていた話。1386話でソウル市道峰区のことを書いた。おもしろそうな資料はあるかと調べていたら、道峰区のホームぺージがあり、自動翻訳をしようとしたら、日本語のページが用意されているのに気がついて、驚いた。「ソウル在住日本人も足を踏み入れる機会は多分ほとんどない道峰区だろうが」と書いたが、日本人在住者も多いということだろう。私が無知でした。ソウルの道峰区レベルで、韓国語版のほか、英語、日本語、ベトナム語のHPがある。こんなにすごい自治体は、日本にあるか? 東京都港区のHPを見てみると、英語、中国語、韓国語の各版があるようで、日本でも港区ならやっているんだ。試しに韓国語版を開こうとすると、コンピューターの自動翻訳に案内されるというだけだった。これで、外国語版があると胸を張れるのか!?