991話 大阪散歩 2017年春 第30回

 雑談集 その2

●旅に出ると映画を見たくなる。大阪だからといって大阪らしい映画を上映しているわけではないが、大阪らしい映画館に行った。3本立ての新世界国際劇場は、私が映画館に通っていた1960年代そのままの映画館だ。3本をすべて見ると、大阪を散歩する時間が無くなるから1本だけにしようと思いつつ上映作品を見ると、韓国映画「弁護人」(2013年 主演ソン・ガンホ)をやっているので、晩飯前の夕方に見た。「ソン・ガンホ作品に外れなし」という法則どおりだが、「名作」と呼ぶにはまだちょっと遠い。
f:id:maekawa_kenichi:20191102105518j:plain
 新世界国際劇場

 民族植物学の竹井恵美子さんと会った日、夕方から「大阪アジアン映画祭」で中国映画を見るというので、私もいっしょにその映画を見ることにする。「私は潘金蓮じゃない」(2016年、フォン・シャオガン監督)のことは何も知らず、いかにも「芸術映画でございます」という感じで始まったので、「このまま『芸術』をされたら、困るなあ」と思っていたら、すぐにおもしろくなった。佳作。ただし、テレビでの放送はないだろう。
https://www.youtube.com/watch?v=cjVrAzqufxM
 翌週の新世界国際劇場では、またしても韓国映画だった。チェ・ミンシク大杉漣が出演する「隻眼の虎」。駄作。チェ・ミンシクはいいのだが、全体的にひどい出来で、しかも大杉がまったくいただけない。それはともかく、この映画の原題は「テホ」(大虎)なのだが、日本語タイトルである「隻眼の虎」は読めますか? 配給会社は、「どうだ、かっこいいタイトルだろ」と自慢かもしれないが、ほとんどの日本人が読めないタイトルにする神経が理解できない。「せきがん」と読んで、「片目」の意味だ。一対の片方が「隻」で、船を数える「1隻」でも使う語ではあるが、映画のタイトルとして使う語ではない。どうしてもつけたければ、ルビを振るべきだ。
http://www.crank-in.net/movie/news/45168
 2週続けて韓国映画を上映しているので、「韓国映画を毎週上映するシステムなんですか?」と館主らしき人に聞いたら、「いや、別に、そんなわけじゃ・・・」と言っていた。
 大阪を離れてだいぶたった今、インターネットで上映作品を調べてみたら、このコラム執筆時は、3本のうち1本がタイ映画だった。うん、なんだか、おもしろいぞ。だけど、5人と客のいない映画館が気になる。大阪の映画ファンはチェックしていないのかなあ。
 この映画館、また気になって、コラムアップする今日6月2日の上映作品を調べたら、3本のうち1本は韓国映画「奴隷の島 消えた人々」(2016年)だ。大阪人の映画ファンなら要チェックだな。
http://movie.walkerplus.com/th204/schedule.html
大阪弁の話で、誰でも書いている「冷コー」の話はもういいかと思って触れなかったのだが、思い出話を書いておこう。40年ほど前の大阪では、喫茶店で「アイスコーヒー」などと注文すると。「東京の真似をして、気取ってる!」と嘲笑と侮蔑の目があったと、その当時は若者だった人が話していたことを思い出した。その当時、関西ではアイスコーヒーは冷コー(冷たいコーヒー)と呼ぶのが普通だったが、「かっこいい若者」を演じたい大学生は、東京風に「アイスコーヒー、ひとつ」と注文することもあったという。時移り、今では「冷コー」はじーさん用語になったらしい。
●大阪を歩き、資料を読んでいてわかって来ること。橋の多くは、民間人の寄付で作ったものだ。通天閣大阪城も、市民の寄付で建造された。東京なら、政治家と役人が動いて、「なんとか予算を獲得する」という方向に進むのだろうが、首都ではない大阪は幕府(お上、政府)に働きかけても無駄だということはわかっているから、民がカネを出した。そういう歴史は、数多い大阪本にはあまり書いてない。大阪人は、当たり前の歴史だと思っているからだろ。
f:id:maekawa_kenichi:20191102105410j:plain
 トイレだけのために飲食店に入る人がいるんですねえ。