1377話 最近読んだ本の話 その10

 女の集団のゴタゴタ

 

 田部井淳子という名前は、「登山家」ということ以外まったく知らないので、どういう人生を歩んだのかちょっと知りたくなって、『タベイさん、頂上だよ』(田部井淳子、ヤマケイ文庫、2012)を買った。この本は2000年出版の『エベレスト・ママさん』(山と渓谷社)を文庫化したものだ。田部井淳子は、世界で初めてエベレストの頂上に立った女性であり、世界七大陸最高峰に登頂した最初の女性でもあると知った。

 この本に行きつくまでのいきさつを書いておくと、そもそもはヤマケイ文庫だ。年に1回くらいは、アマゾンで「ヤマケイ文庫」を検索したり、神保町三省堂の登山書籍の棚でヤマケイ文庫の背を眺める。登山に興味があるわけではないが、日本人の海外旅行史を調べていると、海外旅行自由化以前に、登山隊として日本人が外国に出かけた歴史があるので、登山の本も一応チェックしている。1960年代から外国に出ている田部井淳子の本も、このさい読んでみようと思ったのである。

 この本を私は「人間の集団の物語」として読んだ。女の登山家は男と違って、出産、育児、家事などを担当せざるを得ない状況にあり、「みんなで、山に登ろう!」という熱意だけでは登山計画を実行に移すのは難しい。この本には、メンバーとの意見や感情のバトルが実名のまま綴られていて、問題がないから文庫化されたのだろうとは思うものの、「そんなこと、書いていいのか?」と思う場面が少なからずある。やはり団体行動は大変だ。

 そういう人間の摩擦が「女特有の」と表現できるかどうかわからないが、1975年のエベレスト隊の場合はこうだった。登山隊は、もちろん女だけで組織された。隊員のなかで、誰がさらに上に登るかといった人選でもめるのは男女共通だろうと思うのだが、この登山隊は隊長の行動がおかしい。

 標高2400メートルのルクラに着くと、隊長は「カトマンズに用がある」といってヘリコプターに乗ろうとしたが、席に空きがなく断念。

 標高3900メートルのタンポチェに着いたら、隊長は「日本に電話をかけたいから、カトマンズに戻る」といって、隊を離れる。しかたなく、田部井が隊長になる。数日後、隊長は日本に帰国してしまったと知る。9日後、隊長が日本から戻ってきた。「理由は聞かないでほしい」というだけ。離脱の理由は書いてない。

 人間関係のゴタゴタと金策の物語は、おそらくどの登山隊でも起こる「あるある」なのだろうと思う。それに加えて、出産や育児家事など、「女の問題」(もちろん、男の問題でもあるのだが)が加わる。この本は、そういう内容の本だ。だから、私は団体行動が嫌いなのだ。団体で100のことを成し遂げるなら、たったひとりで1か2くらいのことをやった方がいいと思う人間だ。