2003年のテレビ番組「情熱大陸」で、アメリカで活躍する新進気鋭のジャズピアニスト上原ひろみを知った。取材時はまだバークリー音楽院の学生で、放送時は首席で卒業した直後だった。
私はジャズが大好きだが、音楽学的知識はゼロだから、彼女の才能はわからないが、多分とてつもない才能を持ったピアニストなのでしょう。しかし、「これは、すごい」とか「いいなあ」という感動はまったくなかった。このテレビ番組が伝えるふたつの情報で、私が感動しなかった理由がわかった。彼女が大好きなピアニストは、オスカー・ピーターソンだそうだ。私はジャズピアノが好きだが、彼のCDを1枚も買ったことがないから、「なるほどね」と納得した。指が驚異的に早く動くということに、私はまったく感動しないのだ。音楽はオリンピックじゃないから、速さや正確さといったテクニックに、私はまったく感動しないのだ。
番組で、上原ひろみはバークレー音楽大学を首席で卒業したと紹介された。やはり、な。以前に同じ体験をしているのを思い出した。小曽根真にも、「並みはずれてうまいんだろうが、おもしろくないなあ」と感じたのを思い出し、そういえば同じ経歴の大西順子や山中千尋も、聞いてみたらあまりおもしろくなかった。アメリカ人ではブランフォード・マルサリスとウィントン・マルサリスの兄弟も音楽大学を優秀な成績で卒業していて、しかし私の好みには合わなかった。音楽大学の成績なんか、私にはどうでもいいことだ。
私は、あるジャズミュージシャンのピアノ演奏が「うまい」かどうかまったくわからないが、聞いて「グッと来る」かどうかは自分でわかる。肌に合うから、聞く。それだけのことだから、音楽学校の成績なんかどうでもいい。バークレーの卒業者たちを批判しているわけではない。技量にケチをつけているわけではなく、私の好みの話をしているだけだ。
じゃあ、お前は誰が好きなんだと、ジャズファンなら思うだろうから、好きなピアニストの名を順不同であげておく。
アブドゥーラ・イブラヒム、モンティー・アレキサンダー、ハンク・ジョーンズ、ホレス・シルバー、デイブ・ブルーベック、アーマッド・ジャマル、ソニー・クラーク、トミー・フラナガン、ラムゼイ・ルイス、デューク・ジョーダン、ビル・エバンス、ボビー・ティモンズ、ジーン・ハリス、ドン・プレーン、ジュニア・マンス、ジョン・ライト、エディー・ヒギンズ、ゴンザロ・ルバルカバ・・・。
こうやって好きなピアニストを書き出すと、ジャズファンなら「あんた、ジャズ・メッセンジャーズが好きなんだね」と見抜かれるだろう。しかし順序は逆だ。リー・モーガンもハンク・モブレーも、カティス・フラーも、ドナルド・バードも大好きで、調べてみればアート・ブレーキー&ジャズ・メッセンジャーズの元メンバーたちだと気がついたというわけだ。私は、ただ「ご機嫌な音楽」(この「ご機嫌」という表現を渡辺貞夫や植草甚一がよく使った。昔の若者言葉なのかもしれない)を聞いているだけで、ジャズの勉強は一切しないから、こういうことになるのだ。
私のリストに名が上がっていない有名ピアニストは、ジョージ・シアリング、レッド・ガーランド、バド・パウエル、オスカー・ピーターソン、セロニアス・モンク、キース・ジャレット(唸らなければいいのだが)チック・コリア、ハービー・ハンコックなどだ。ハービー・ハンコックは初期のアコーステイック時代は好きだが、電化されて以降は聞きたくならない。電子ピアノやシンセサイザーが好きになれないのだ。
考えてみると、1960年代から70年代にジャズ喫茶に巣くっていた連中は、エセ教養と理論武装のためにジャズを聴いていたんだろうが(もちろん、全部じゃないが)、私はただ好きで聞いているだけで、理屈をこねる気はない。ジャズ評論など、読んだことがない。ジャズ喫茶のジャズファンと談志ファンとスシ・ソバにうるさいヤカラとは顔を合わせたくないなあ。今なら、これにラーメン屋の偏屈傲慢オヤジやラーメンマニアが入るか。マンガ・アニメファンも近づきたくないなあ。どうやら、学者も含めて理屈遊びをしているヤカラが好きではないようだ。