1901話 言葉は実におもしろい。地道に勉強する気はないけれど・・・ その12

 

ことばの音

 1888話で、こう書いた。

 「インドネシア語スワヒリ語スペイン語は、カタカナで耳に入ってくるが、初めてタイ語を聞くと、特に女の子がしゃべるタイ語は、小鳥のさえずりのように聞こえて、モヤかカスミに包まれたように感じるのだ」

 138ページで、高野さんも同じようなことを書いている。

 「(スペイン語を)まだろくに習っていない段階から音がそのまますべて聞き取れることだった」

 スペイン語の発音の注意というのは、例えばgだ。Gaは「ガ」だが、giは「ヒ」、geは「ヘ」になる。JはJapon(ハポン、日本)のように、ハ行になる。

 スペイン語の発音の講義を15分受けて、カタカナ表記のスペイン語を読むと、読んだ日本人は意味はわからないが、聞いていたスペイン人はかなり理解できると思う(内容にもよるが)。30分の講習を受ければ、スペイン語をそのまま読んでも、ある程度は通じると思う。もし、スペイン語の単語を100知っているとすれば、ほぼ全部わかるだろうし、知らない単語でも綴りは想像できるから、辞書で調べることもできる。

 上智大学インドネシア語講座にちょっと通ったことがある。これは、おどろくべき体験だった。2回目だったか3回目だったかの授業で、宿題が出た。英語で言えば、in,on,under,betweenといった語にあたるインドネシア語を学んだ。そこで、教科書の単語リストなどを参考にして、「~の上に何がある?」といった文を作ってくるというのが宿題だった。これが、初級入門編の入り口の授業だ。

 次の授業で生徒は自分が作った文章を読み、先生が黒板にその文を書き、解説をする。これがタイ語だと、まず、生徒はタイ語の作文ができない。文字が読めないのだから、テキストから適当な単語を探すなどと言うことなどできるわけがない。そして、100万歩譲って作文ができたとしても、生徒が読むタイ語を先生は聞きとれない。2時間ほど習っただけで、タイ語の発音ができるわけはないが、インドネシア語ならできるのだ。この授業を受ける前に、インドネシアには何度も行っているし、インドネシア語の簡単なテキストは読んだことがあるが、そういう予備知識など、ここでは関係ない。

 インドネシア語の発音で注意すべきことはいくつかある。例えばcだ。cinta(愛)はチンタと発音する。chの発音でいいのだ。もっともやっかいなのはeだ。そのまま「エ」でいい場合と、「ウ」になる場合がる。そのどちらかは、覚えるしかない。gamelanは「ガメラン」ではなく、「ガムラン」だ。sepatuは靴のことだが、発音はセパトゥではなく、「スパトゥ」。

 話は横道にそれるが、スペインの街を歩いていて、”zapatos”という看板を見つけて、店を見ると靴屋だった。発音はパトスではなく、「パトス」。スペイン語のzも要注意だ(フィリピンの都市Zamboanga はスペイン語名だから、読み方はサンボアンガ)。 リズボンでは”sapatos”の看板を見つけた。もちろん靴屋だ。どうやら、これがインドネシア語のsepatuの語源らしい。しかし、sepa、足、・・・が気になってきた。

 東南アジアには、足を使ったバレーボールのようなスポーツ、セパ・タクローがある。このスポーツを、マレー語ではsepakという。文字通りの意味は「蹴る」だ。タイではタクローという。元は籐製のボールのことだが、いまは公式競技ではプラスチック製のものを使う。東南アジアの競技会で、タイ語名を使ってもマレー語名を使っても角が立つので、ふたつの名称を合わせて「セパタクロー」と呼ぶようになった。

 というようなことを考えると、靴の“sepatu”とマレー語の蹴るの“sepak”に何か関係がありそうだが、ちょっと調べたくらいではわからない。私は言葉の習得に励むより、こうい調べ事をしているのが好きだ。

 上に書いたことを調べるのに、久しぶりに棚から『馬来語大辞典』を取り出した。冨田『タイ日大語辞典』のような百科事典的マレー語辞典だ。この辞書が出てから80年以上たつが、いまだに肩を並べるマレー語インドネシア語辞典は出版されていない。高野さん、お勧めしますよ。読んでおもしろい辞書ですよ。

 タイ語の音を聞いたことがない人に、タイのテレビCMを紹介する。感動CMとしてユーチューブでは有名なCMだ。