1907話 言葉は実におもしろい。地道に勉強する気はないけれど・・・ その18

 

カタコト

 日本語を含めて、言葉に興味があるが、地道に、懸命に学ぼうという気概がない。日本語に関しても、漢字検定でいい成績とおさめようという気なんかまったくない。いわんや、外国の言語をや、だ。基礎からしっかり勉強する気はないが、その言語のおもしろい姿を眺めるのは好きだ。例えば、スワヒリ語の文法は、いままで知っている文法とはまるで違い、「へー、こんな言語があるんだね」と感心する。それだけだ。スペイン語は、疑問符“?“は、文章の頭と尻の両方につく。文章の最期につくのは英語などと同じだが、文の頭について、しかもこの記号がさかさまについている。、校正者がこの「さかさ疑問符」を誤植と判断して、取る指示をしたという例があったと、校正者のエッセイで読んだ。

 私の関心は、スポーツで言えば、ただ見ているだけで、体を動かそうとはまったく思わないという人である。世界のあらゆるスポーツに興味があるが、キャッチボールさえやる気がないという人だ。あるいは、世界のあらゆる食べ物に興味があるが、それを日本で再生する気がないのとも似ている。

 世界のいくつかの言語の姿をちょっと見てみたが、ほとんど何も覚えていない。勉強していないのだから、当然だ。英語は、中高校生時代に学校で学ばされた。それだけだ。英会話学校に通うとか、英語留学をしたといった経験はない。英語の家庭教師がいたわけでもなく、英語に特化した中高校でもない。受験英語教育の高校だったから、まともに授業を受けることを拒絶していた。

 初めての海外旅行で、言いたいことは何とか言えたが、あまりにひどい英語だから、帰国して、高校入試用の英語の参考書を買ってきた。中学英語の総復習だ。ちょっと旅行すれば、中学レベルの文法がきっちりわかっていれば、旅行会話は充分できるとわかった。関係代名詞だの、仮定法過去完了とか受験勉強に必要な文法の知識などなくても会話はできる。文法などあまり気にせずに、短文をしゃべっていればいいのだ。聞き取りは、時間が解決する。慣れれば、わかるようになる。

 話すことに慣れてくれば、200か300の単語でかなり表現できるようになる。知らない単語は、知っている単語で説明すればいい。重要なのは、言いたい英語を知っているかではなく、その語の意味を理解しているかどうかだ。「専制政治」を英語でどういうかを知らなくても、その意味を知っていれば簡単な英語で説明できる。そういう「やっつけ英語」に慣れると、一応会話は成り立つが、成長はしない。旅先で雑談していて、私の英語を直してくれる人は少ないし、なんとか理解しようと努力してくれる。

 タイのAUAの校長が、「1年間は学校以外でタイ語はしゃべるな」と言った意味は、私のようなカタコトのおしゃべりをしないようにするためだ。「それ、いい。高いない。買ういいよ」というしゃべり方にならないように注意したのだが、私の英語がそれに近い。

 それでもしゃべってきたのは、知りたいことがあり、言いたいことがあり、私と話してくれる人々の好意に助けられてきたからだ。それにしても、ひどい英語だとわかっているから、ペーパードライバーが教習所にまた通うように、基礎から英語の勉強をし直した方がいいのだが、「いいよ、今更、めんどくせー」と思って、復習をしないから、いつまでたってもヘナヘナ・トボトボ・ポツリポツリ英語なのである。これ、決して謙遜ではないから、誤解のないように。ほんと、もう、ひどい英語なんです。タイ語はもっとひどい。