1919話 デジタル機器と旅 その3

 

 スマホがあれば、何でもできる。観光情報を得るのはもちろん、宿や鉄道・バス・飛行機・船など交通機関の予約ができる。美術館・博物館などの予約ができる。高級レストランの予約もできる。スマホがあれば、例えば今後5週間のスケジュールがあたかも団体旅行のようにきっちりと決めることができる。「先のことは、旅をしながらおいおい予約しておけばいい」と思うだろうが、旅行先がスペインのバルセロナイビサ島アムステルダムや、クロアチアドブロブニクなど、常時ホテルが満室に近い状態という過密観光地の場合、できるだけ早く予約を入れた方がいい。ホテルが取れたら、交通機関の手配もしておかないといけない。そうなれば、ひと月先のスケジュールも、まるで出張サラリーマンのように、予定を消化することに忙しくなる。そういう旅が好きならいいが、「自由気まま」、「なるようになるさ」という旅をしたい人は、スマホの使い方を考えないといけない。あるいは、スマホが使えない地域に行くか、観光客などほとんどいない土地にいくかだ。

 旅の最重要事項が便利さなら、スマホを徹底的に使えばいいが、偶然を楽しみたいなら、スケジュール作りはほどほどにしておいた方がいい。

 もしかすると、予約以外にスマホの重要な機能は、地図かもしれない。街で歩きスマホをしている人を目撃すると、「何を見ているのか?」と背後に回って観察すると、地図を見ていることが多い。地図機能に関しては文句はない。だから、スマホを買うなら大きな画面の方がいいなあと思う。

 「凱旋門前のわたし」といった写真を撮りたいとはまったく思わないのだが、それはどうやら「世界の変わり者」に属するらしい。旅とは関係なくても、どんなものでもやたらに写真を撮りたがる人たちの性癖も、私の理解の範囲を超えているが、「邪魔にならない程度に、ご勝手に」と言っておくが、このクセに関しては学問的研究が必要かもしれない。人はいつから、自分の顔を「フォトジェニック」(写真写りがいい)だと思い込むようになったのか。

 私が仕事でもないのに写真を撮るようになったのは、このブログに載せるためで、撮影枚数は一般的な旅行者と比べればかなり少ないと思う。自分の姿を誰かに撮ってもらいたいなどと思ったことがない。私が「その場にいた」という証拠を残す必要などない。

 スマホはコンピューターでもあるから、旅先の事柄を調べる気なら、簡単な観光情報でも学術論文でも、検索すれば読むことができる。博物館の解説文も、翻訳アプリで日本語で読むことができるそうだ。スマホにはできることがいくらでもあり、膨大な情報を引ネットの旅行記をさらりと読むと、例えばケーキ屋の情報を集めて、おいしそうなケーキ屋に行き、買って、撮影するといった使い方をしている例はあるが、コンピューターの頭脳を使って書いた旅行記がどれだけあるか?

 その昔、旅行ガイドブックの編集者やライターと話をしたことがある。読者の多くは、「見どころ」の説明はほとんど読まない。読むのは、宿情報と交通事情(目的地への生き方)くらいだと語っていた。「こういう犯罪に注意」「よくある詐欺」と言った注意を書いても、読む人は少ないという。

 旅行者にとって、一番重要なスマホの機能は、多分、行きたくなる場所の「バエる写真」撮影と各種予約機能、日本の友だちとのLINEだろうか。旅先でも、日本でしていたのと同じようにSNS遊びができるのが喜びなのだろうか。