1945話 ああ、ついに、なんとスマホを持つ境遇に 上

 

 かねてから、ガラ携帯の使用期限が切れるし、外国旅行はスマホがないと実に不便だから、「いずれ、そのうちにスマホに」と考え始めたのはコロナ前で、もしかするともう5年ほどの年月が流れたかもしれない。その間、天下のクラマエ師ことクラマエ師など友人知人からいろいろアドバイスをもらい、日々検討を重ねた末に、「えい、やっ」と購入を決意し、実行に移した。

 今までガラ携帯を持ってはいるが、使うのは月に1回か2回ほどで、30秒の通話かメールだけだ。スマホに買い替えても、その習慣は変わらないだろう。スマホで動画を見ることはないし、ゲームもやらない。パソコンでできることはすべてパソコンに任せるから、スマホは外出先の連絡程度だ。親しい人との連絡はパソコンのoutlookを使うから、日本国内でスマホを使う機会はほとんどなさそうだ。スマホはもっぱら海外旅行用ということになる。

 そこで、「ほとんど使わないのだから、通信料も本体も、極めて安い方がいい」という条件で調べたら、楽天モバイルと言うことになった。問題のある会社だということはわかっているが、日本国内ではほとんど使わないスマホなのだから、欠点は目をつぶる。

 クラマエ師が使っているシステムの方がはるかに安いが、無店舗販売は私には向かない。師は、いわば県立第一スマホ高等学校の卒業生の知識を持っているのだが、私はと言えばスマホ乳児院に預けられている身なのだ。スマホを扱う小学生など珍しくないから、どう考えても私は幼稚園レベルでさえない。店舗がある会社で安いところということで、「3GBまで月々980円(税別)」というプランにして、機種は「Rakuten Hand 5G 19001円」の19000円引きで、1円。そういうことにした。

 店舗で契約の手続きをしていると、「これさあ、うまくいかないんだよ」と言いながら店に入ってくる老人がいて、といっても多分私と同年配かもしれないが、手に持ったスマホを店員に渡して、うまくいかないという説明をしている。

 「これ、パスワードを入れないといけませんね」

 「パスワード? そんなの覚えてないよ。すぐ忘れるんだよ」

 「そういう場合は、『パスワードを忘れた方』というところをクリックして・・・」

 といったやり取りをしているのだが、話はいつの間にか、この夏の旅行の話をしている。20代なかばの女性店員は、「わたし、海外旅行って、まだしたことがないんですよね」と軽くいなしている。老人は、スマホの相談はとりあえずの口実で、世間話をしたくて店に来たんだろう。

 楽天の店舗に来る途中にあるドコモの店舗をガラス越しに見たら、老人介護施設かと思えるほどの満席状態だった。「予約なしでも対応」という表示が出ている。予約する手段と技術のない人が、直接店に来たということだろう。スマホに関して、私は乳幼児の知識しかないが、パソコンはもう20年近く使っている。「使っている」といっても、グーグルなどで検索し、いくつかのホームページを読み、図書館の蔵書を調べ、ワードで原稿を書き、出版社に送るという程度の使い方だから、パワーポイントもエクセルも、「それ、何?」状態なのだ。大学で授業をしている友人たちから、「前川さんは、いい時に大学を辞めたね」とよく言われる。コロナ禍で遠隔授業などということになっても、授業に必要なパソコンなどの設定はできないから、辞職を申し出るしかない。

 その程度のパソコンの知識なのだが、それでもゼロではないから、スマホも少しはわかる。デスクトップのキーボードとは大きく違うから、文字の入力には時間がかかるが、長い文章を書く気はないから、ローマ字入力をポツポツやればいい。これが、「パソコン、まったく知りません」という段階からスマホを始めるのは大変だろうが、「ただの電話機」としてしか使わないなら、知識はあまり要らないだろう。

 今回スマホ選びに際して、「キッズ携帯」とか「シニア向けスマホ」というのも一応調べてみた。シニア向けは文字が大きいのはうれしいが、「話し放題」というのは要らない。一定時間スマホを使わないと、「何か異変が?」と心配して家族に連絡がいくシステムとかいろいろあって、結構高い。だから、そんなスマホは要らない。