2004話 目立たないことと自己顕示欲 後編

 若者は目立ちたくないのか。いや、違うなと感じたきっかけはSNSだ。

 匿名の書き込みは、うさ晴らしにはなっても、自己顕示欲は満たせない。「オレだよ、オレ!」と、オレの存在を示したくても、オレは匿名だ。本名をさらして意見を言う度胸はない。氏素性を隠しているから、言いたい放題、犯罪になるようなことでも平気で書き込んだのだが、「このオレ」が書いていることを世間に知らせたい欲望もある。

 それが、ツイッター、インスタグラム、ユーチューブなど画像がつくことで、自己が表に出始めた。

 ここでちょっと横道の話を。時代は2010年以前だと思われる。たけし軍団ビートたけしの話だ。軍団の人たちが、ネットなら無修正動画を見ることができるという会話を耳にしたたけし、

 「おい、そのインターネットってのをすぐに買ってこい! 秋葉原に行けば売ってるんだろ。高くたっていい。すぐに買いに行け!」

 「あのう、インターネットは売っていないんで」

 「売っていないのを、お前どうやって手に入れたんだ?」

 というようないきさつがあり、パソコンを購入した。

 それは2チャンネルの時代で、たけしはエゴサーチをした。

 「たけしってのがよ、うそばっかり言ってるんだよ。にせもののたけしだよ。だからよお、『うそばっか書いてんじゃねえ。オレが本物のたけしだ!』と書き込んだんだけど、『またまた。何人目のたけしだよ』って、信用してもらえないんだよ。だからよお、電話番号と住所を書き込んでやろうかと思ったんだけど、軍団に止められて・・・」

 匿名では、承認欲求を満たせないのだ。今なら、ユーチューブに本人が出て、好きなことを言うという方法はある。顔をさらせば、加工されていないことが前提だが、その本人の顔と行為は広く知られることになる。

 アルバイト先でのバカ行為、回転ずし店でのバカをやるなどなど、さまざまなお騒がせ及び犯罪をネットで公開しているが、そういう行ないを初めて知った時、「よくも自分の顔をさらして、こんなことをやるよなあ」と思ったのだが、目立てばいい、話題になればいいという自己顕示欲によるものなのだろう。自分が話題の中心になれればいいのだ。社会的影響は、多分考えていない。友達の送る動画と世間に公開する動画の違いが分かっていないのだろう。つまり、「目立たないように生きる」という若者がいると同時に、関西弁で言えば「目立って、なんぼ!」という若者もいることに気がついた。

 ネット画像で自分の顔はそのまま出しても、氏素性を出さなければ影の存在のまま生きていけると思ったのかもしれないが、例の、回転ずし店醤油さしペロペロ事件の犯人は、話題となってすぐに、ネットでは在籍する高校名や個人名も明らかにされた。そうなれば自宅や家族がさらされるのは時間の問題だ。そういう想像ができない者が、ネットで自己顕示欲を満たそうとしたのだという想像は働くが、それは正しいのか私にはわからない。

 暴走族を思い出した。彼らは、世間からひんしゅくを買う暴走行為をすることで、自分たちの存在を認めさせようとしていたわけで、これは北朝鮮のミサイル発射行為にも似ている。

 昔の若者は、徒党を組んで「自分たち」の存在を認めさせようとしたのだが、いまのSNS時代は、個人か仲間数人の行為だ。

 突然、頭に浮かんだこと。

 なぜかアホは、渋谷に集まる。数十年に一度、大阪にも集まる。