その店には「Deli」という看板がかかっていたかもしれない。ニューヨークだ。デリカテッセンに初めて足を踏み入れたのはもしかするとヨーロッパだったかもしれないが、デリフーズというものをはっきり意識したのは、ニューヨークだった。歩道から、肉屋のガラスケースのようなものが見え、サンドイッチやいくつもの料理を量り売りしている店なのだろうと見当をつけた。貧乏旅行者は、チップがいらない食事をしたいと思っていた。
店に入って、「ハムサンドイッチをください」と言った。英語は通じるという自信はあったのだが、目の前にすぐサンドイッチは出てこなかった。
「どのパン?」
その意味がわからない。いぶかしげな私の顔を読んで、白いパンとか全粒粉のぱんとかライムギのパンとか・・・。店員の誘導尋問に助けられて、「ライムギパン」と注文した。これでハムサンドにありつけるだろうと思ったが、まだまだ壁があった。
「どのハム?」と店員。
ハムの種類なんか、知らないよ。ロースハムとプレスハムと、あと何がある?肉屋のケースのようなものに、さまざまなハムが並んでいてそれぞれに名前を書いたプレートがついているが、理解できる名称はほとんどない。あれから40年以上たった今でも、「Taylor Ham」というプレートを覚えているが、それがどういうものか、今ネットで調べてみたが、読んでもよくわからない。
そのデリカテッセンでは、わけもわからず適当にハムの名を告げた。ああ、これで、おわりかと思ったんだが、質問はまだ続く。
マスタードは?
タマネギは?
「マヨネースは?」という質問があったかどうか覚えていないが、とにかく、これでハムサンドが手に入った。
この面倒臭さを、おもしろいと思った。スーパーマーケットなどに行けば、様々なハムやソーセージを売っているが、ひとり旅ではハムを500グラムも買ってもしょうがない。だから、ヨーロッパの街を散歩して、ハムやソーセージを食べ歩いたらおもしろそうだと思った。チーズだって、いろいろ食べたいが、ひとり旅ではどうにもならない。ひとり旅でも口にできたのは、高価な生ハムで、スペインで生ハムを食べまくった話は、アジア雑語林に書いた。画面右側の「検索」欄に「生ハム」で検索すれば、いくつもの情報が出てくる。これがそのひとつ。
チーズは臭いのが好きだ。無味無臭のチーズはおもしろくないのだが、「臭くて食えん!」という種類のチーズも多くあるだろうが、その種のチーズをまだ食べていない。
プラハでよく話をしたジョージアから来た留学生は、ハードタイプのチーズが大好物ということで、いつもバッグにチーズを入れていた。話をしながらチーズを取り出し、ナイフで少し削り、口に含む。この動作を繰り返していた。私の好みでは、ハードタイプのチーズは過熱して食べたい。
私はふかふかふんわり、砂糖とミルクがたっぷり入った真っ白なパンは苦手なので、私好みのパンを毎日口にするには、やはりヨーロッパに行くしかないか。日本にもハードタイプのパンを売る店があるのは知っているが、パンのために週に2~3回遠出するのは面倒だ。
今回の話題と直接の関係はないが、いつものYouTube遊びをしていたら、アフリカの村の料理風景が登場した。アジアの村料理の光景はしばしば見てきたが、アフリカ料理の動画は初めてだ。私の関心がアフリカの音楽に及んでも料理にはなかなか及ばなかったせいで、見るのが遅れた。ここなど、African Village LifeやAfrican Village Cookingなどを検索語にすると、テレビでは紹介されない動画が出てくる。チャパティに油を塗るのは、ケニアでよく見る料理法だったなと思い出す。
その次に登場したのは、インドはアッサムの家庭料理。19分を過ぎたところで子芋の煮物を作っていて興味深い。こうして動画を見ていると、時の流れを忘れて何時間でも遊べてしまい、読書時間を失くすが、やり方次第では、動画から情報を読み取るインターネットによる文化人類学研究というのも可能だろう。