56話 本とどう出会うか(3)

 テレビ・ラジオの番組で



 書評の番組やコーナーをあまり見ないので、私自身にはなんの影響力もない。一般読者にとっても、さほど影響力はないだろうと思う。何人かの編集者の話ではそうだったのだが、別の意見もある。
 ちょっと確認したいことがあって、めこんの桑原社長に電話したついでに、マスメディアの影響について尋ねたので、その話を紹介しておこう。
「一般読者にも読みやすいもので、読者の関心が比較的ある分野で、しかもそれほど高くないなどいくつかの要因が重なっていると、その本がラジオなどで紹介 されると、放送当日から数日は客注(客が書店に注文をだすこと)がどんどん入ることもあるよ。活字メディアでの紹介は、ラジオほどの影響力はないですね」
 かつて、人気絶頂だったころの逸見政孝が、出版したばかりの自著を宣伝するためにある有名ラジオ番組に出演し、「ぜひ読みたいという希望者はハガキで申し込みいただければ、抽選で10名にさしあげます」と告知したが、6通しかハガキが来なかったという話もある。
 アジア文庫関係では歴史的大事件を経験している。アジア文庫がまだ日曜定休だった10年以上前の話だが(現在は基本的には無休)、月曜日に店主が店に来 ると、事務所がファックス用紙の海になっていたことがあるそうだ。ある本の注文や問い合わせである。その本は、大同生命国際文化基金が発行しているビルマ 文学(※注)の翻訳で、市販はしないが唯一アジア文庫でだけ扱っていた。騒ぎの原因は、土曜日に放送されたラジオ番組でその本が紹介されたからだった。も しもその本が、大出版社から普通に出版されたものであったら、こうした騒ぎにはならなかっただろう。

 ※アジア文庫店主の長い注釈: 紹介された本は、「農民ガバ」(マァゥン・ティン著)、番組は、TBSラジオ 「土曜ワイド」。実売数は、私の記憶では、60冊くらいだった。でも、短期間にこれだけの数が売れたのはアジア文庫にとって「事件」だった。
 大同生命国際文化基金の本は、現在、アジア文庫でも扱っていない。同基金からは、他にも「アジアの現代文芸」シリーズと題されて、アジア各国の小説が 40点ほど出版されている。本シリーズは主要な図書館に寄贈されているので、興味のある方は、最寄の図書館にお問い合わせください。
 めこんの桑原さんが言っているように、活字メディアでの紹介で、問い合わせが相次ぐということはほとんどない。
 新聞にアジア関係の本が書評に載ったとき、在庫があれば、「お、出たか」と余裕で済まされるのだが、在庫のない本が書評に出ると、「ヤバイ!」と思って しまう。先先週だったか、朝日新聞の書評欄に「尹東柱詩集 空と風と星と詩」(金時鐘訳 もず工房 1,800円)が掲載された時がそうだった。掲載時に 在庫がなかった。一般の書店に置いていないと思われる出版社の本だったので、問い合わせがくるのではないかとあせった。確かに問い合わせはあったが、二件 だけだった。
 活字メディアに比べて、テレビの影響力というのはすさまじい、怖いくらいだ。本そのものの紹介ではないが、テレビの影響力の大きさを感じたのは、「ウォ ンビン写真集」だった。以前、「アジア文庫のレジ裏から」にも書いたが、2002年2月に放送されたテレビドラマ「フレンズ」(TBS系 日韓共同制作) の放映直後、当サイトとしては驚異的な数のアクセスが殺到した。主演のウォンビンが、当時、日本では無名だったためか、テレビを見た女性が一斉にネットで 「ウォンビン」を検索したようだった。その後、「ウォンビン写真集」に注文が殺到した。
 最近、日本で放映された韓国のテレビドラマは、同じような現象を次々に起こしている。ご存知、「冬のソナタ」は、社会現象といってもいいような騒ぎに なっている。主演のぺ・ヨンジュンチェ・ジウの人気も半端じゃない。でも、ここまでくると、もうアジア文庫の枠をはるかに超えて、メジャーの世界の、別 の出来事になってしまった感がある。大出版社が次々に写真集を出し、大書店のメーンの平台にドーンと積まれたぺ・ヨンジュンがにこやかに微笑むようにるよ うになってきた。韓国のテレビドラマが、これほど日本に受け入れられるようになろうとは、一昔前では考えられなかった。隔世の感がある。