以前、一年間に買った本の出版社別ランキングを発表したような気がするのを突然思い出 し、2004年版をやってみようと思った。総数が何社になるのかカウントするのは面倒なので省略するが、とにかくそのベスト10を調べてみた。「ベスト」 というのは、ただ単に数が多いということであって、その出版社や出版物の「ベスト」ではないので、その点誤解のないようお願いします。
1位 講談社 29冊
2位 文藝春秋 17冊
2位 新潮社 17冊
4位 中央公論社 14冊
5位 筑摩書房 15冊
6位 集英社 12冊
7位 平凡社 10冊
7位 岩波書店 10冊
9位 角川書店 9冊
10位 小学館 8冊
単行本のほかに、文庫や新書、そして選書などをそろえた出版社が優位に立つという点では、講談社や新潮社がトップクラスになる理由は明らかだが、文藝春秋が健闘しているのは、私が文春文庫が好きだという傾向があるからだろう。
それでは、中央公論社も好みの出版社かというと、「昔は、ね」と言わざるをえない。今はまったくおもしろくないが、それなのに昨年中央公論社の本を多く 買ったのは、古本屋で絶版文庫・新書をまとめ買いをしたからだ。中公については、項を改めて別の機会に書く。
筑摩書房の15冊のほとんどは、ちくま文庫だ。ちくま文庫の目録を眺めていたら、「この文庫だけを読む老後も悪くないな」とふと思った。落語の本を中心に、エッセイやノンフィクションをのんびりと読んでいる生活はなかなかに優雅だ。平凡社の本もそれに近い。
こうしてリストを作ってみて、自分でも意外だったのは、集英社と角川書店だ。この両社とも、じつは私好みの出版社ではない。だから、ほとんど買っていないだろうと思っていたのだ。記憶などあてにならないものだ。
集英社の本では、どんな本を買ったかというと。
『ダッカへ帰る日』(駒村吉重)
『南海放浪記』(白石一郎)
『春画』(椎名誠)
『わが人生の時刻表』(井上ひさし)
『歌舞伎を救ったアメリカ人』(岡本嗣郎)
『メキシコから世界が見える』(山本純一)
『住まいと家族をめぐる物語』(西川祐子)など。
角川では
『アイデン&ティティ』(みうらじゅん)
『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(米原万理)
『ココ』(ピーター・ストラウブ)
『空気げんこつ』(鹿島茂)
『モーターサイクル・ダイアリーズ』(エルネスト・チェ・ゲバラ)など。
「昔ならもう少し多かったはずだが」と思うのが、朝日新聞社の本だ。出版広告を見ても、最近ではさっぱり食指に触れない。まるで買わないわけではないが、5冊を超えることはないと思う(いかげんな記憶だが)。
2004年に読んだ本のなかで、もっともおもしろかった作品を選んでみようと思ったが、判断基準がさまざまあるので悩んだ結果、「よし、これだ!」と無理やり選んだのは、次の本。
『呪医の末裔』(松田素二、講談社、2003年、2400円) ケニア人の100年にわたるライフヒストリーと社会史の本で、内容のおもしろさはもちろ んだが、文章がうまいのがありがたい。いちばん読んで欲しいのは、退屈な文章しか書けない学者たちだ。外国の論文を引用していれば、立派な論文になると 思っている日本の愚かな学者たちに。