113話 ふたたび、ニッポンが嫌いだ


  このコラムの2004年11月19日号に、「ニッポンが嫌いだ」という文章を書いた。「日本」を「ニッポン」と無理やり発音する放送局を批難し、こんな日 本語を耳にしたくないという趣旨だ。「日本」はすべて「にほん」でいいじゃないか、無理して「ニッポン料理」などと呼ばないでいいじゃないか。そう書い た。そして、「私のこの意見は、けっして少数のものとは思わない。日常生活では「にほん」と発音する方が多いような気がする」という文章で終えた。
 さて、すでに読んだ人も多いとは思うが、2005年5月11日の朝日新聞夕刊に、「話言葉『ニホン』圧勝」という記事がでている。
 国立国語研究所は、情報通信研究所東京工業大学と共同で、学会での研究発表や一般的なスピーチなど話し手1417人の計662時間、752万語の自然 な話し言葉を収録して、分析し、日本人の話し言葉に関する研究成果から、「日本」は「ニッポン」と「にほん」のどちらで発音されているのかという問題を解 明している。
 「日本」がつく語を「ニッポン」と発音している事例がどのくらいあるかという一覧表が、紹介してある。右側の数字が「ニッポン」と発音している割合である。100例のうち、1例だけが「ニッポン」と発音していれば、1%ということになる。


日本一     22.5%
日本代表    19.4%
日本列島    4.0%
日本      3.8%
西日本 3.2%
日本語教育 3.8%
日本人 1.8%
日本語 0.5%
現代日本語    0.0%

 「日本一」と「日本代表」が上位に来ている理由は、スポーツアナウンサーの愚行のせいだ ろと思う。サッカーとオリンピックがいけない。「日本一」は、日本人の77%は「にほんいち」と発音している。それなのに、民に教え諭す方針なのか、放送 ではめったに「にほん」とはいわない。「日本人」にしたって、98%は「にほんじん」と発音しているのに、例えばNHKニュースではどうしても「ニッポ ン」と呼びたいらしい。 
 私の予想ではもう少し「ニッポン」が多いかと思ったが、よしよし、いい傾向だ。NHKがどんなにあおっても、民は従わないのだ。
 それなら、いっそ、「日本」は「にほん」と決めてしまったらどうだ。国名の呼び方が一定しないというのは、日本語学習者にとっても不自由だ。
 そこで問題になりそうなのが、会社名などの固有名称だ。「日本」が社名につく会社がいくつもあり、それをどう呼ぶのが正しいのか、社員しか知らないなん て変だろ。だから、どうしても「ニッポン」と呼んでほしい会社は、「ニッポン放送」のように、カタカナかひらがなで表記すればいい。「日本」と漢字にこだ わるなら、「にほん」と読まれても訂正なんかしてはいけない。
 もう一度書いておく。「日本」を「にほん」と発音して不都合な語はひとつもない。語呂がおかしくなる語はひとつもない。日本銀行は「にほんぎんこう」で いいじゃないか。紙幣には無理して、NIPPON GINKOとローマ字表記しているが、それなら「ニッポンギンコ」と呼んでやろうか。
 日本から、「ニッポン」を廃棄せよ。産業廃棄物というのがあるが、「ニッポン」は役所と軍のゴミである。だから、すぐさま廃棄せよ!!
(言葉を論じると、どうしても独裁者の発言に近くなってしまう。ああ)