134話 面積遊び


 ある大金持ちの邸宅の広さを、例えば「東京ドームとおなじくらいの広さ」とか「日比谷公園と同じくらい」などと説明することがある。これでわかるのは、とにかく広いということだけであって、具体的にはなにもわからない。日比谷公園を知らない人には、想像できない広さだ。
 シンガポールの説明は、「ちょうど淡路島と同じくらいの広さで」とよく書いてあるが、これもよくわからない。とにかく「国としては小さい」ということはわかるが、それ以上具体的には何もわからない。
 シンガポールの面積は683平方キロ、淡路島は633平方キロで、「同じくらいの広さ」と説明することじたいに問題はないが、具体的な広さをイメージす るには26キロ平方(26キロ四方)と説明した方がわかりやすい。「1万5000平方メートルの大邸宅」ではまるでわからないが、「122メートル四方の 広さ」と考えると、広さをイメージしやすい。本を読んできて、そこに登場する土地などの広さがイメージできないと、電卓を取り出してルート計算をする。そ うしないと、5ヘクタールとか10アールといった広さをイメージできないからだ。電卓で加減乗除以外の計算をするのはこのときだけだ。√ボタンを押すだけ だから、簡単だ。
 シンガポールは淡路島によく例えられるが、台湾は九州によく例えられる。「台湾は、ほぼ九州くらいの広さで・・・・」という文章をガイドブックなどでよ く見かける。見かけるが、ちゃんと調べたことがなかったので、これを機会に調べてみた。台湾の面積は3万6000平方キロ、九州は4万2000平方キロだ から、より正確に説明するなら「台湾は、九州から大分県を除いたくらいの広さ」としたほうがいい。
 私がポルトガルに行くとき、すでに行ったことがある友人が「ポルトガルは九州と同じくらいの広さしかないから、国内移動といっても、実に簡単だ」といっ た。実際に旅すると、鉄道やバスの移動は簡単で、「狭い国」を実感し、友人の話を今の今までずっと信じていた。ところが、たった今、ポルトガルの面積を調 べてみると、9万2000平方キロくらいあって、九州の2倍以上広く、8万3000平方キロある北海道の広さに近い。
 さあ、そこでだ。調べ始めたついでだから、世界の国のなかで、「九州とほぼ同じ広さ」といえる国を探し出してみた。
 オランダ、スイス、デンマークグリーンランドを除く)、エストニアブータン、ドミニカ、スロバキアなど。
 一方、「北海道と同じくらいの広さ」といえるのは、オーストリア、ヨルダン、ポルトガルハンガリーなど。韓国は約10万平方キロだから、北海道に岩手県を足したくらいの広さだ。
 日本人が外国人に日本を紹介するときに、日本は資源のない小さな国で、そういう国が生きていくために、「殖産興業・富国強兵」や「奮励努力・創意工夫」 をしてきたという歴史を語ったりするのだが、世界の国々を多少なりとも知っていれば、日本はその面積においてけっして「小さい国」グループには入らない。 日本人は、アメリカやロシアを見て、「外国は大きい、しかし日本は小さい」と思い込んだだけだ。日本はけっして小さくはないことを勘ではわかっていたが、 この際、具体的に調べてみようと思い、日本よりも面積の広い国をメモ帳に書き出してみた。
 全世界の国の数を一応192カ国として、面積の広い順に並べると、日本は55位になる。調査に正確さを求めてはいないので、ひょっとすると多少順位が 違っているかもしれないが、大筋ではこれでいいと思う。順位だけを見ると、日本は「大きい国」グループに入っていることがわかる。ヨーロッパで日本よりも 面積の広い国は、ウクライナスウェーデンノルウェー、スペイン、フランス、ロシアの6カ国だけだ。アジア47カ国のなかで、日本は15番目に面積の広 い国になる。
 世界には、日本より面積の狭い国はいくらでもあるのだから、政治家や文化人や経済人諸君、「東洋の小さな国が・・・」というような話はいい加減にやめなさい。ナショナリズムを鼓舞したいというのではなく、故なき卑下はおやめなさいということだ。