195話 「世界の秘境シリーズ」人物中心飛ばし読み その3

■1962年11月号、第8集。
 ここにもアフリカの旅行記が載っている。「未知の国ソマリア沙漠縦断記」を書いているのは、かの西江雅之。筆者紹介には、こうある。

 筆者は昨年七月から今年の一月までアジア・アフリカの言語研究のためタンガニーカケニアソマリア、セイロン、インドなど約十五ヵ国を旅行。

 西江は当時まだ早稲田の学生だったはずで、帰国後日本初の「スワヒリ語辞典」を書く。 「世界の秘境」編集長が早稲田出身ということと関係があるのかどうかわからないが、前回紹介した後藤も、今回の西江も早稲田だ。外国に興味がある早稲田の 学生やOB、そして教員などに、編集長が執筆を依頼したのではないだろうか。
■1963年2月号、第11集。
 「ピレネーの真珠アンドラ共和国」を書いているのが、日本最初のDJといわれる志摩夕起夫。1952年放送開始の「イングリッシュアワー」でDJをやったというが、私には記憶はない。しかし、ラジオでよく聞いた名前ではある。筆者紹介には、こうある。

 筆者は1962年5月から約4ヵ月にわたり、ソ連圏をのぞくヨーロッパ各国の風俗や民謡などの取材旅行を行ない、現在、日本テレビカラー番組でバラェティに富んだ紀行解説を入れて放送中。

 「海外旅行とマスメディア」の関連に興味があるのだが、この「日本テレビ」の番組がなにか、まだ調べがつかない。ある番組のコーナーだろうか。「11PM」は、半分は日本テレビだが、放送開始は65年だから、ちがう。さて?
 「不老長寿の国フンザ探訪記 神秘の国を紹介したA.E.バニク博士」を書いている白川竜彦という名に記憶はない。ただ、この記事のプロローグがちょっ と気になった。73歳でフンザを訪問した日本女性が書いた『七十三歳の青春』(宮田文子)という本の紹介から、このエッセイが始まっている。
 現在でも気軽に行ける場所ではないのに、海外旅行が自由化されていない1960年代前半に、73歳でフンザに行くというのは「眉唾」ではないかと思って 調べてみた。『73歳の青春』の版元は朝日新聞社で、この宮田文子は私が知らないだけで、大変な有名人らしい。山崎洋子の『熱月(テルミドール)』のモデ ルであり、群ようこの『あなたみたいな明治の女』でもとりあげている。いわば、「とんでもない明治女」の代表のような人物らしい。ネット上でも詳しく紹介 されているから、興味のある人は自分で調べてみればいい。まあ、一筋縄ではいかない波乱万丈な人生ですよ。
 宮田文子はいったいどんな本を書いているのか、著作を調べてみたら、知っている本が見つかった。あの本を書いた人か。『刺青と割礼の食人種の国 ―黒い コンゴ』(講談社)は、我が家のどこかに眠っているはずだ。おもしろかった、とか、よくできているといった読後感はない。どだい、「食人種」という語をタ イトルに入れている本が、よくできているわけはない。
 それはそれとして、前回紹介した小倉薫子や、今回の宮田文子、そして、「世界の秘境」に登場しているかどうか知らないが、辰野嘉代子という豪傑もいる。過去の旅行記のほうが、ずっと過激である。