1204話 プラハ 風がハープを奏でるように 第13回

 此頃都ニハヤル物 その5

 

 プラハでよく見かけるものの第4位は、これだ。

 4、中国語人観光客

 いまさら、なのだが、プラハにも当然中国人、正確には中国語人観光客が多くいる。中国語人というのは、中国語でしゃべっている人たちという意味で、中国、台湾、香港などの人たちの総称だ。中国系のマレーシア人やシンガポール人なども含める場合もある。

 もちろん団体客もいるが、夫婦や友人たちと旅行をしている人たちも多い。中国語人旅行者といえども、個人旅行者がかなり多いと思われる。プラハは人が多いのでわかりにくいので、オーストリアとの国境近くの小さな街、チェスキー・クロムロフの数日間、旅行者の話し声に耳をすませば、観光客の60パーセントは中国語人だと思われる。韓国人は3パーセント、日本人は1パーセントいるかどうかというくらいだろうか。アジアから来た旅行者がしゃべっている言葉をすべて聞いたわけではないから、「まあ、そんなものか」という程度の想像だ。

 とにかく中国語人が多いから、細い道を歩いていると、目の前に数十人の中国語人がいる風景に出会うと、雲南かどこかにいるような気になってくる。

 私にとって、中国語人旅行者の最大の謎は、トランクを引きずって観光地巡りをしていることで、大阪でも多かった。でかいトランクを引きずってカウンターだけの店に入って来るから、中の客は店から出られなくなるし、入れなくなる。だから大阪で、「トランクの人、お断り」という表示を見たが、日本語だけではあまり効果はない。

 プラハの石畳の道でも、派手な騒音をたてながら、トランクを引きずっている。これがプラハの騒音であり、ベネチアの騒音でもある。世界の観光地の騒音である。ホテルをチェックアウトして、飛行機や列車やバスが出るまでの間、荷物を持って観光しているのだろうが、世界遺産のような観光地にまでトランクを引きずっていくのは中国語人だけだと思う。日本在住中国人に、「ホテルに預かってもらうか、駅にロッカーを使えばいいのに、なぜ?」と聞いたら、「ホテルには戻りたくない。駅のロッカーは小さいから、中国人の巨大な荷物は収容できないからです」という回答だった。有人の荷物預り所がある国もあるし(私はバンコクなどの空港で使ったことがあるし、モロッコのバスターミナルで使ったこともある)、駅には大きなロッカーもある。そういう事実を考えてみると、中国語人はそういう事実を知らないのか、ホテルが遠い郊外にあるからか、それとも保管料を払うのが嫌なのか、さて。

 性格が悪い私は、ごろごろ・ガラガラ・ガシャガシャとトランクを引く騒音にうんざりし、しかも歩道や店内でジャマなので、いっそすべて壊われてしまえばおもしろいのにと夢想することがある。ある日ユーチューブ遊びをしていたら、それは私の単なる夢想ではないとわかった。現実だったのだ。日本での話だが、中国人が壊れたトランクを所かまわず捨てていくというゴミ公害の報告もあった。粗悪トランクに、買った物を無理やり詰め込もうとして、壊れるらしい。

https://www.youtube.com/watch?v=b3LANuFgzAI

 ある高級ホテルの従業員のグチを聞いた。中国人が泊まった部屋は、そのあと臭気を抜くために数日間、部屋が使用不可能になるのだという。臭気の原因は部屋で作るラーメンと酒盛りの臭気だという。床に座って飲むから、ラーメンの汁がジュウタンにこぼれたりと、掃除が大変なのだという。

 日本のホテルの話で聞いたのは、韓国人観光客が使った部屋はしばらく使用不可能になるという話だ。冷蔵庫に韓国から持ってきたキムチ類をいれて、毎夜部屋で酒盛りをやるからだ。キムチ臭が部屋に染み込む。

 実は、日本人も同類だと思う。会社の同僚や友人たちとの旅なら、毎夜部屋で酒盛りをやるかもしれない。ラーメンや、イカの燻製などの珍味は、西洋人には「臭くてたまらない」かもしれない。中国人観光客の狼藉の話を聞きながら、日本人としては肩身の狭い思いがした。タイ人だって、フィリピン人だって、部屋で酒盛りをするだろうし、インスタントラーメンを作って食べるだろう。だから、部屋を臭くするのは中国語人だけではない。ただ、中国語人は圧倒的に数が多いから、被害が甚大なのだ。

 

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 プラハのカレル橋。いわゆる観光地にはほとんど行かないし、行ってもほとんど写真を撮らないので、観光客の姿はわずかしか撮影していない。

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 チェコ南部のチェスケー・ブディェヨビツェのプシェミスル・オタカル広場に行くと、中国語人の撮影会が行われていた。普通の観光客に加えて、写真愛好会の撮影旅行のような光景も見た。でかい一眼レフを下げた女性も多かった。