1406話 食文化の壁 第4回

 

 外国料理の壁 内臓と血

 

 インド料理と油の話をここで少し触れておく。日本人が苦手なインド料理を想像すると、ひとつはスパイス、とくに許容量を超えたトウガラシだろうが、もうひとつは北インドに多い「油だらけの料理だ」。ビルマ料理を初めて食べたとき、椀に盛った料理の上1センチほどが赤い油で、「ああ、インドに近づいたな」と感じた。ヒンは、油煮込みと呼びたくなるほど、大量の油を使う。例えば、このブログ。

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 トンカツやトリのから揚げが大好きな日本人でも、油だらけの料理は苦手だろう。単なる想像で言うのだが、東南アジアでも、ベトナム人やフィリピン人は、油の海を泳いでいるような料理は好きではないと思う。

 さて、内臓の話だ。日本人が動物の内臓など、肉以外の部分を好んで食べるようになったのは、第何次かの焼肉ブーム以降だろうか。焼肉屋は昔からあったが、労働者階級の男たちが煙の中で食べるような料理で、酒はビールでも日本酒でもなく、焼酎がよく似合う。もちろん、レモンサワーなどない時代の、見下されていた時代の焼酎だ。

 肉以外の部位にまずスポットライトが当たったのは、いわゆるホルモンだろう。大腸や小腸を中心に、胃や肝臓などを焼いて食べた。焼肉屋よりも、串焼きの方がポピュラーだろう。やきとりという名の、実はブタの内臓を使ったヤキトンが、日本人に広く食べられてきた内臓だろう。

 さげすまれたホルモンの時代から、「おしゃれで、高級」という存在になったのは、牛タンブームが起こってからだろう。次は、東京では短命に終わった「博多もつ鍋」だろうか。牛はどこも部位も人気がありそうで、スーパーに肉売り場では、飲食店に回されるからか、牛のバラエティーは少ない。だが、ブタは肉以外はあまり喜ばれず、供給過多になっているらしい。皮つき豚肉さえ、その辺のスーパーにはない。

 日本人は、年を追って内臓も食べるようになってきたが、相変わらず拒絶されているものもある。まず、モミジだ。ニワトリの足先部分は、ニワトリを食べる地域では食べる。欧米ではぜいたくをして捨てるかもしれないが、東アジアや東南アジアでは、煮込んでスナックとして路上で売られていたりする。日本では、わずかにラーメンのスープなどに使われるだけで、あとはペットフードか産業廃棄物になってしまっているかもしれない。

 モミジ以上に拒絶されるのは、多分、血だろう。血のソーセージはドイツにも韓国にもある。血を豆腐のように固めた食材もアジアではよく食べる。

 血に対する態度は大きくふたつに分かれる。血を無駄なく使う文化と、イスラムユダヤ教の世界のように、血を嫌い、屠殺しても、血は捨てる文化がある。日本では、沖縄を除くと、血はあまり利用しない。韓国料理にスンデという物がある。もち米の飯、春雨、香草などを豚の血で混ぜて、ソーセージにしたものだ。調査をしたことはないが、日本人で「これが大好き」という人は少数だろうと思う。血の料理は、日本人にとって高い壁である。

 私も、血の料理は好きではない。元は中国料理だろうが、タイではルアット(血)・ムー(ブタ)というものがある。ちょっと見ただけだとレバーだと勘違いしてしまうが、「血の豆腐」あるいは、甘い味はついていないが「血のプリン」といったものだ。汁に入れて食べる。食べることはできるが、「うまい」と思ったことがない。

 あっ、今、スッポンの血を思い出したが、まあ、あれは強壮剤として、アルコールで割って胃に流し込むわけで、味なんか関係ないものだ。