1418話 下品な料理

 

 世間では、刺身は上品で、アラの料理は下品だと考えている人がいるらしい。あるいは、ヒレ肉やサーロインの料理は上品で、内臓料理は下品だと考えている人がいる。そういう考えにはくみしないが、下品な料理はたしかにある。

 資料を探すとこれから半日かかるかもしれないので、記憶で書く。伝説的ノンフィクションライターである本田靖春のエッセイに出てくる話だ。彼がまだ新聞記者をやっていた若い頃、先輩記者と小料理屋に入った。カウンターに着くと、店主が集めた食材や調味料などの自慢話が始まった。一方的にしゃべりまくったあと、「で、ご注文は?」と言った。すかさず先輩が、答えた。

 「何でもいいから、能書きのない料理をくれ!」

 料理の解説は、情報を食べたい人には上品かもしれないが、料理を食べたい人には下品だ。

 下品な料理の代表例は、金箔金粉料理だ。料理の上で金箔がそよいでいる。酒には金粉がゴミのように漂っている。金は食後一定時間がたつと、便器に排出される。人体には害ではないが、有効な働きがあるわけではない。単に、成金趣味を満足させる効果があるに過ぎない。だから下品なのだ。

 金粉ではないが、「これは下品だなあ」と思うのは、レインボーカラーに彩られたアメリカの巻きずしだ。コバルトブルーの軍艦巻きなんか、食べたくない。極採色の日本料理はアメリカでは大衆化に役立つし、大衆化していけばいずれ、”authentic”(正真正銘の、本物の)という形容詞で表現される日本料理店に行く客も増えるだろう。アメリカ人の好みに合わせて変化したのだから、これはいたしかたないのだが、でもなあ・・・。

 金粉料理よりもずっと前から「下品だ!」と思っていたのが、北海道で見たカニラーメンだ。

 カニラーメンいろいろ(リンクを貼る方法を独習しました。ヒマの効用です)

 「宴会に、カニは出すな」という法則のようなものを聞いたことがある。カニが出ると、全員が身をほじくる作業に没頭して、会話が途絶える。だから、宴会向きではないというのだ。それはゆでたカニのことだ。カニラーメンは、会話がなくなるだけでなく、麺がのびる、汁が冷める。

 その昔、ある雑誌の取材旅行をしているときに、少々高い定食を食べた。小さなイセエビの半身が入った味噌汁がついていて、高価に見せているが嫌な予感がした。エビの身をほじくると、指が汚れ、お膳に水滴が飛び、汁が冷めるから、今風に言えばインスタ映えだけの下品な味噌汁だった。

 カッコだけの、カニラーメンやエビ・カニの味噌汁は、じつに下品である。

 今、思い出した。もちろん取材で行ったのだが、某有名料亭の取材で昼のコースの話を聞き、撮影し、食べた。この料理がいけない。皿にさまざまなモノがのっているのだが、どれが料理で、どれがタダの飾りなのかがよくわからないのだ。モミジは細工モノか植物か。松葉は細工モノか植物か。小石は小石か、あるいは砂糖菓子かわからないのだ。料理の皿に料理以外のモノ、食べられないモノをのせるのは下品であり、危険な行為だ。