1522話 本の話 第7回

 

 『知の旅は終わらない』(立花隆、文春新書) その 4

 

 立花の著作の中に『思索紀行』(書籍情報社、2004)がある。すでに紹介した1960年のヨーロッパ旅行から、この本がでるちょっと前までの旅の話を集めた本だ。

 この本を資料に文章を書きたいとは思ったものの、我が家で見つけ出す可能性は低いだろうと思った。それでも、「もしかして・・・」と旅行関連の棚を探ったら、あった。昔読んだ本は本棚に収めているが、本棚がいっぱいになってから読んだ本は行方不明になる確率が高い。

 立花隆の文章を初めて読んだのは、ギリシャのアトス半島の紀行文で、かすかな記憶では「月刊プレイボーイ」の特派取材のようなものだったと思っていたのだが、この本で調べると、「FMファン」(共同通信社1984)に載ったものだが、「月刊プレイボーイ」には書いていないという証拠はない。

 自分の旅を振り返って、豊かな知性をもとに、思慮深い文章を綴る最後の世代が立花だと思っている。だから、旅行記について書くと、しばしば『思索紀行』を取り上げてきた。調べてみると、このアジア雑語林だけでも、4回触れている。だから、ここではもう触れない。書きたいことはすでに書いた。

243話(2008-12-24)

279話(2010-09―02)

331話 (2011―06-08)

1060話(2017-12-08)

 『思索紀行』で、1960年の旅に関する部分は紀行文ではなく、この版元がおこなった1996年のインタビューに加筆して、単行本に収めたようだ。その文章が、語り下ろしの新書『知の旅は終わらない』とごく一部が同じ文章なのはいいのだが、なぜか、校正で改変されている。1520話で次の文章を引用した。2020年版だ。

 「僕が買った東京からロンドンへの切符は一人分の往復で25万円しましたから、現在の貨幣価値にすると10倍の250万円くらいになるでしょう」

 2004年版の『思索紀行』には、こうある。

 「ぼくが買った東京からロンドンへの切符は片道で25万円しました。現在の貨幣価値にすると300万円くらいになるでしょう」

 「片道で25万円」という2004年版の正しい情報を、2020年版ではなぜか「往復で25万円」に改変されている。過去の間違いをそのまま載せるということはよくあることだが、新原稿で間違いを書くという理由がわからない。

 旅の話とはまったく関係がないが、『知の旅は終わらない』に、まるでテレビドラマか小説のような話が載っていたので、ちょっと紹介しておく。立花といえば、世間的には田中角栄追及で知られた。田中角栄を退陣させるところまで追い込んだ「文藝春秋」では、続編を企画し、その単行本化も企画されていたのだが、編集局長から「もう手を引け」という指示があり、田中問題追及はすべて消えた。立花がのちに知ったのは、文春幹部にスキャンダルがあり、それを田中派が掴み揺さぶり、文春側が折れて、手を引く結果となったそうだが、そのスキャンダルって、なんだろうね。カネかオンナか・・・。文藝春秋が田中問題の続編を手掛ければ、何千万円もの収入が予想されただろうに、それを反故にしてしまうようなスキャンダルだったということか。