1526話 本の話 第10回

 

『とっておき インド花綴り』(西岡直樹、木犀社) その2

 

 ギマ・シャーク(ザクロソウ科)は苦くてうまいと書く。消化促進、整腸作用もあるという。

 「ベンガルには、苦みを楽しむ野菜がとても多い。ニーム(インドセンダン)、ニガウリ、実が三、四センチメートルくらいしかない小粒のニガウリのウッチュなどがある(ニガウリに関する記述は、『続・インド花綴り』がもっと詳しい)。

 タイ料理を、「辛くて、塩辛くて、甘くて、酸っぱいが合体した料理」だと説明する人は、偉そうな言い方になってしまうが、「入門編初心者コース在学中」と言っていいだろう。「すべて」ではなくても、「大半のタイ料理」が、辛味・塩味・甘味・酸味が合体したものではない。辛味のない料理もあるし、酸味のない料理もある。

 英語のメニューがあるバンコクタイ料理店を離れて、市場の脇の路上の飯屋や家庭料理に出会えば、強烈な苦みや渋味を体験することになるだろう。「タイ人は、強烈な苦味が好き」ということはわかっていたが、ベンガル人(西岡さんは、周到に「インド人は」という表現を避けている)もまた、苦味が大好きだということをこの本で知った。

 ニーム(インドセンダン)は、タイ語でサダオという。苦い野菜だという知識と写真で姿は知っていたが、食べたことはなかった。ある年のこと、陸路でマレーシアに行こうと、国境の街サダオにいた。その街の名がこの苦い野菜の名と同じだということはすでに知っていた。サダオの街の市場を歩いていると、ゆでたサダオを売っているのを見つけた。ここで会ったが百年目、ゴザを前にしたおばちゃんに、「一本ちょうだい」といって、枝を1本もらった。サダオは遠目にはワラビのような姿で売っている。草ではなく、木の枝先だ。

 ゆでたサダオの枝の、破片くらいの葉を口に含んだだけで、声をあげたくなるほど苦かった。私はもともとニガウリも大嫌いだから、サダオは土台無理だ。市場のおばちゃんたちは、外国人にサダオが食べられるわけはないと思っているから、私の試食行動に注目し、爆笑した。「ねえ、ほら、いわないこっちゃない」とでも言いたそうな笑いだった。

 「小粒のニガウリ、ウッチュ」もタイにある。日本人にもおなじみのニガウリは「マラ」といい、表面がつるつるのものを、「マラ・チーン」(中国ニガウリ)というから、この単語を学んだ日本人はちょっと下を向いてしまう。

 ここでちょっとタイ語ミニ講座を。植物名につく「マ」は、実を表す。元は「〇〇の実」という意味の語が、植物名になったものが多い。例えば、マラコー(パパイヤ)、マプラーオ(ココヤシの実)、マナーオ(ライム)、マムアン(マンゴー)、マカーム(タマリンド)などいくらでもある。マコークは、ニワトリのタマゴくらいの実で、コーク(ウルシ科)の実という意味だ。和名はアムラタマゴノキ。コークの木が茂る水辺の村がバーン・コークで、これがバンコクの語源である。

 タイ語ミニ講座と苦味とクソを食う話は次回に。