1884話 ブラジルのコーヒー

 

 NHKBSの「COOL JAPAN」を見ていたら、ブラジル人がまたおかしなことを言った。ちょっと前のことだが、「ブラジル人は、コーヒーに砂糖を入れて飲みません」というから、「そんな、アホな」と関西弁で突っ込みたくなったのだが、先日放送した特集「日本茶」でも、同じことをしゃべっている。「ブラジル人は一日に何杯もコーヒーを飲むから、砂糖を入れて甘くしたら、体を悪くします」という意味のことをしゃべった。おいおい、である。

 ブラジルのコーヒーの話を初めて聞いたのは、ブラジル駐在から帰国したばかりの元駐在員夫婦からだった。

 「ブラジルのコーヒーって、それはもう恐ろしいくらい甘くてね、飲むと、カップの底に溶け切らなかった砂糖がたっぷり沈殿しているんですよ」

 この話を聞いてから数年後、たまたま日系ブラジル人と話をする機会があって、おそろしきブラジルコーヒーの話をすると、「そうそう、そうなんですよ。ブラジルでは、コーヒーに砂糖を入れても、かき回さないんです。それでもたっぷり甘くないと、『ケチ』と判断されます」

 ブラジルを旅した人からも、このおそろしきブラジルコーヒーの話を聞いていたから、NHKのテレビ番組でのブラジル人の発言に、耳を疑った。おいおい、である。番組でしゃべったブラジル人は、意図的にウソをしゃべったのではなく、自分の体験を話しただけなのだろうが、多くの人の体験とは異なっている。

 私はブラジルには行ったことがないから、耳や目にした情報だけを頼りに書いているのだが、試しにネットで「ブラジル コーヒー 砂糖」で検索すると、ブラジルのコーヒーがいかに甘いかという情報がいくらでも出てくる。「ブラジル人が言っているんだから正しい」ということはないのだ。

 中国人が、風呂に関してさまざまに発言している。「中国人は水浴びはしても、湯につかる習慣はない」とか、「他人に裸を見られるのを極度に嫌うから、日本の銭湯はいやだ」といった発言をしている中国人がいるのだが、そうじゃない例もあるよという話は、このアジア雑語林の19話、20話ですでに書いている。そのコラムはもう20年も前に書いたもので、それ以降中国の入浴事情がかなり変わってきたということがネット情報でわかる。中国ではスーパー銭湯のようなものが増えていて、水着着用が多いらしいが、このレポートでは全裸になるらしい。

 ロンドンの公衆浴場の話は、リンクしたアジア雑語林の上記コラムに書いたが、その後、ヨーロッパ映画を見ていて、風呂屋に行くというシーンがあって、「ああ、この街にも銭湯があるんだな」と思ったのだが、どの映画だったかメモしておくのを忘れた。日本の銭湯のように、客が全裸で入浴するというシステムの国はそう多くはないが、個室の風呂屋というのは、ヨーロッパなどにいくらでもある。例えば、これがフランスの例

 外国人が日本の銭湯になじめるかどうかという問題は、裸体に対する感情の問題もある。「北欧の人たちは、暗い冬を体験しているので、夏には裸になりたがる」という傾向があって、海辺で全裸になりたがり、タイなどではそういう全裸旅行者の対策に気をもんでいるという報道があった。

 しかし、寒い国、暗い冬の国の人々がすぐ脱ぎたがるというわけでもない。イギリスやアイルランドや、たぶんアイスランドやロシア北部の人たちは、北欧の人たちと同じように、すぐに全裸になりたがるわけではないと思う。だから、「ヨーロッパ人は・・・」などと一概には言えないのだ。国土が広い中国に関しても、「中国では・・・」とか「中国人は・・・」と概論を話してしまうと、とんだミスをしてしまう。

 食べ物の誤解、あるいは誤報も多い。次のような話だ。「韓国人は、左手で器を持って箸でご飯を食べるという日本式の食べ方をしない」という韓国人の発言は誤りだと、このコラムで何度もした。韓国のドラマや映画を見ていれば、丼を持ち上げて、麺や飯をかきこんでいるシーンが登場する。「イタリア人は、フォークだけでパスタを食べる、スプーンを使うのは子供とアメリカ人くらいのものだ」というのも、イタリア人の食事風景を見ていると、正しくないこともわかる。日本の食事マナーどおりに食べられない(食べない)日本人は、いくらでもいる。箸をちゃんと使えない日本人も大勢いる。それと同じだ。マナーと現実は違うのだ。