1693話 タイのちょっとうまいもの その7

 中国料理

 

 タイの食べ物を思い浮かべて、これまで6回の話を書いてきたが。タイ料理があまり好きではないことがよくわかる。「広義のタイ料理」は、中国料理やインド料理なども含めた「タイ人が日常的に口にしている食べ物」のことで、農村で古くから食べられてきた料理を「狭義のタイ料理」と考えている。日本の食文化に即して言えば、ラーメンやハンバーグも含めて、日本人が日常的に口にしている食べ物すべてが「広義の日本料理」で、近代の外国料理を除いたものが「狭義の日本料理」とすると、江戸時代にはすでにあったすしやてんぷらをどうするのかという問題はあるのだが、それはまた別の話だ。

 広義でも狭義でも、タイ料理が「嫌い」というのではもちろんない。しかし、「あんまりなあ・・・」と思う料理も少なくない。その理由はふたつある。

 まず第一に、臭いハーブが苦手だからだ。パクチーコリアンダー)は、インド料理で使う乾燥させた実には嫌悪感はないが、タイでは普通生で使う。その臭気が嫌いだ。パクチーよりももっと臭いのが、パクチーファラン(オオバコエンドロ)だ。ほかにも、食欲を減退させるハーブはいくつもある。ミントの葉をつまみながら飯を食うというのもいやだ。

 タイで、「これ食いたくないなあ」と思う料理のもうひとつの理由は、「甘さ」である。タイ料理をあまり食べたことがない人はその辛さに驚くだろうが、甘さも結構強い。麺料理に砂糖を振りかけて食べるというのがタイ人のクセで、食前の儀式のごとく汁そばにグラニュー糖をたっぷり投入する。砂糖を入れるかどうかは客の自由裁量だから、私のような変わり者は、砂糖を入れないで食べることが許されるが、砂糖を入れながら、炒め、煮込み、和えると、客はもうどうしようもない。最悪なのが、昨今、日本のスーパーマーケットや100円ショップなどで売るようになったスイート・チリソース(甘辛ソース)だ。その味を簡単に説明すれば、シロップにあまり辛くない種類の粗挽きトウガラシとナムプラーを入れたようなものだ。

 市場や路上でさつま揚げを売っている店を見かけると、私の食欲をえらく刺激するのだが、「それ、ちょうだい」と言うと、さつま揚げをビニール袋にいれて、このベタ甘ソースを入れられる。できれば、ショウガ醤油かカラシ醤油で食べたいのだがタイではそうもいかず(自宅でやればいいのだが、私はタイでは料理はしない)、味のほとんどないさつま揚げを食べることになる。

 というわけで、タイの路上で「なにか、うまいものを・・・」を探し始めると、どうしても中国系料理を探すことになる。東北タイ料理としてよく知られるパパイヤ・サラダの「ソムタム」も、バンコクスタイルはベタベタに甘いことがある。タイでは、日本や韓国と同じように、甘い料理はぜいたくであり、都会的だという認識があるように思うが、そういう料理が私は苦手なのだ。

 この甘さは、早朝なら許せると思えるのが、コーヒーの甘さだ。飛び切り濃く入れたコーヒーをコップに注ぎ、そこに砂糖と加糖練乳(コンデンスミルク)と無糖練乳(エバミルク)を入れた飲料で、コップ下部に練乳とグラニュー糖、上部にコーヒーと二層に分かれているから、かき混ぜる度合いによって甘さを自分で調節できる。朝早く街に出たときや、夜行列車で早朝街に着いたときなど、このコーヒーとパートンコー(揚げパン)の朝食は旅情を感じさせるものだ。バンコクの家の近くにはこういう店がないので、私にとってコーヒーとパートンコーの朝食は旅を感じさせるのだ。これも、「タイのちょっとうまいもの」だ。

 タイの食べ物の話は、今回で終わる。