1817話 韓国料理の甘さ

 

 タイ料理同様、「韓国料理は辛い」と言われるが、私には甘さが気になっている。砂糖、水あめ、オリゴ糖などをたっぷり入れた料理が苦手だ。

 韓国の料理が昔から甘かったとは考えられない。サトウキビもテンサイも栽培できないからだ。歴史的に言えば、朝鮮の甘味は、ハチミツと水あめだ。水あめは麦芽を加工して作る。砂糖は長年貴重品だった。

 韓国の食番組で「砂糖の輸入が自由化されたのは1980年代だ」という発言があったが、資料で確認できない。日本の、「独立行政法人 農畜産業振興機構」の資料「韓国砂糖産業の概要」には、砂糖の輸入が自由化されたのは1994年1月で、「韓国政府は精製糖の輸入を解禁し、60%の関税を課した。1996年7月には、精製糖に対する関税を50%に削減した」とある。韓国の製糖業は、原料が国内でとれないから、原材料を輸入して国内で砂糖に仕上げていた。製糖業に競争はなく、高値安定していたうえに、砂糖の輸入は制限されていたから砂糖は高価だった。砂糖価格が一気に下がるのは2011年以降だ。今では、国民ひとり当たりの砂糖消費量は、日本が17キロであるのに対して韓国は30キロを超えているという。ついでだからもう少し詳しく書くと、農林水産省の「砂糖及び加糖調製品をめぐる現状と課題について」という報告書では、「砂糖の1世帯当たり年間購入数量は、30年前の約10kgから半分以下の4.4kgまで減少」し、「日本の砂糖の一人当たり消費量は30.4kg(昭和49年)から16.2kg(令和元年)へと45年間で半減。また、他の欧米諸国と比べても半分程度と低い水準」とある。つまり、韓国の砂糖消費は2倍に増え、日本で半減したという興味深いことになっている。韓国の砂糖消費量が急増したのは、砂糖が自由に安く買えるようになったのが、日本よりもかなり遅かったからだろう。

 韓国の料理が甘くなったのはいつからか。

 韓国の俳優ユン・ヨジョンが、昨年アカデミー賞を受賞し、今年2022年にプレゼンターとしてロサンゼルスを訪れる機会を利用して、様々な仕事をこなし、旧友と会う日々をドキュメントにした番組「ユン・ヨジョンの思いがけない旅程」を見た。。ロサンゼルスの韓国料理店で買ってきたジャージャン麺を、ユン・ヨジョンと同行したの俳優のイ・ソジンとプロデューサーの3人で食べるシーンの会話。

 「ここのは昔のままの味」

 「甘くないね」

 「ロサンゼルスで食べる韓国料理は、昔の味を守ろうとしている」

 「甘くないからおいしいわね」

 アメリカに移住する韓国人が一気に増えたのは、1980年代で35万人もいた。韓国系アメリカ人は1990年に70万人、2015年には180万人ほどいるらしい。こういう歴史を考えると、1970年代から80年代の韓国料理がアメリカに持ち込まれて、そのまま定着保存したと考えられないか。1947年生まれのユン・ヨジョンなら、1970~80年代の「甘くない」韓国料理を覚えていても不思議ではない。

 韓国料理の甘さの次は、辛さの話。赤くなった韓国料理の話を、次回に。