韓国料理
朝鮮人と油の関係は、日本人の場合とあまり変わらなかったと思う。朝鮮では昔から肉をよく食べていたという人がいるが、誰もが日常的に食べていたわけではなく、山谷にクマやイノシシやシカなどの野生生物が数多く棲んでいたというわけでもないだろう。北朝鮮の事情はわからないが、韓国の場合、油を大量に摂取するようになるのはここ数十年のことだろうと思われる。
2010年ごろだったか、韓国の食文化番組で中年の芸能人やジャーナリストたちが食べ物について語っていたときだ。ひとりが、こんなことを言った。
「むかしは、ホットクはあんなに油を使わなかったですよね」
韓国の当時50代の人たちにとっての「昔」というのは、1970年代あたりだろうか。
ホットクというのは、日本人にわかりやすく言えば、今川焼(地方によっては回転焼きなどいくつもの名がある)を押しつぶして平たくしたような菓子だ。この名はホットケーキとは関係なく、ホ(胡)トック(餅)が語源で、中国の粉ものの意味だ。
ホットクを作っている映像は何度も見たことがあるが、油の風呂につかっているような光景は、私にも異様に見えた。そこで、調べてみた。
私の疑問をそのまま検索すると、「イェンナルホットク(昔風ホットク 옛날호떡)」という項目が出てきた。筆者は八田靖史氏だ。中国から伝わったときは油を使わなかったが、のちに油を使うようになって、油を使わないホットクを「昔風の」と呼んでいるという。
油をまったく使わないホットクの動画は見つけられなかったが、90歳の老人が作る昔ながらのホットク作りの動画は見つかった。これだ。
一方、現在はどうかというと、このように油の風呂に入っている。次の動画の前半は油の風呂状態だが、後半の33分から昔風のホットクを焼く動画がある。それが、これ。焼くものから揚げるものまで、さまざまなホットクがこの動画で見ることができる。
こちらの動画もホットクの焼き方各種が登場するが、開始1分のところでなんとバターの風呂が登場する。老人は嫌うかもしれないが、若者にはこういうのも受けるのだろう。
ちなみに、ホットクを考えるには砂糖についても調べておかないといけない。韓国では1993年に輸入自由化されるまで精製糖の輸入は禁止されていた。自由化されたが関税は高く、1996年でも、精製糖の輸入関税は50%だった。
油といえば、鳥のから揚げは今や国民食のような地位にあるほどポピュラーだが、これも韓国でブロイラーが登場してからだ。
韓国人はかつては動物性油脂も好みに合わなかったようだ。それが、例えば豚肉のバラ肉であるサムギョプサル(三枚肉の意味)が食べられるようになるのは、1960年代以降らしい。それが一気に人気を得たわけではなく、2000年代に入って次第にポピュラーになってきたらしい。つまり、韓国人が豚肉の脂身の「うまい」と評価するようになるのは、ここ数十年のことらしい。