1928話 スポンジ

 

 ウォークマンに使っている耳掛け式イヤフォンを久しぶりに取り出すと、スポンジカバーが崩壊していた。「こすれて穴が開いた」というのではなく、頬っておいただけで穴があく化学的腐食ではないかと思った。パナソニックの製品だが、スポンジはすぐ崩壊する製品だったようだ。

 そこで替えのスポンジを買おうと、コジマ―ビックカメラに行くと、「今は店頭に置いてないです」と店員が言うから、「店頭にないということは、倉庫にあるという意味ですね」と問うと、ちょっとオロオロして、「いや、倉庫にも・・・」という。靴屋なら、「店頭にないから」と言って、奥の倉庫から持ってくることはあるのだが、替えのスポンジは店にないということだった。

 インターネットでは安く売っていたが、送料も加えると結構高く、「う~む」と考えていたら、「8個セット 送料込みで160円」というのがあった。6月1日に注文したら、すぐに「2日に発送しました。到着予定日は6月19日です」というメールがあった。2日に発送して19日到着と言うことは、北海道から徒歩で持ってくるのだろうか。

急ぐわけではないから、「着けばいい」と思っていたが、19日には着かず、22日に着いた。商品が入っている封筒を見て驚いた。海外便だった。私の住所氏名は正しい日本語だが、外国風を感じさせるのは、住所の順序が番地の下に郵便番号が書いてあることだ。日常的にCDを数多く買っているから、外国から発送されてくるのは珍しくもない。今日届いたCDは、メキシコで制作されたサンバのCD(内容はすべてブラジル人のブラジル音楽)で、発送元はイギリスのマンチェスターの近くで、私の場合そういうのは普通なのだが、先日届いたスポンジの発送元の欄には、キリル文字で印字してある。キリル文字はロシア語だけでなく、東ヨーロッパや中央アジアでも使っている。ウクライナ語も、キリル文字を使っている。

 発送元のキリル文字の最期に、ローマ字が見える。おそらく国名だなと思い、読んでみる。

 Kygryzstan

 「キルギスタンか?」。ネットで調べると、やはり、そうだ。ウィキペディアにこうある。

 「公式の英語表記は Kyrgyz Republic。別称 Kyrgyzstan。国民・形容詞はKyrgyzstani。日本語の表記はキルギス共和国。通称はキルギス

 私が日本で「ポチリ」と注文したせいで、はるばるキルギスからスポンジが送られてきたのだ。アマゾン・ジャパンへの出品者もキルギスなのか改めて調べてみたら、長いローマ字の住所が出てきた。出品者の名は中国人のようだ。中国に無知な私は、ローマ字の住所は解読できないので、これも住所をコピペして翻訳すると、「中国安徽省・・・・」という漢字表記が出てきた。道路名もすべて正しく翻訳されているかどうかはわからないが、そういうことはどうでもいい。日本に住む私がアマゾンで注文し、その注文を受けた安徽省の人がキルギスに発注し、商品が日本の私に送られてきたというわけだ。商品本体代金と送料を合わせた総額は、160円。

 送られてきたスポンジをイヤフォンに取り付けようとしたが、金属部分が外れない。これもネットで調べると、スポンジは交換できないわけではないが、私のような不器用な男は壊してしまいそうなほど、力の入れ方が難しいようだ。

 というわけで、再びアマゾンで、今度はaudio-technicaの製品を注文した。850円ほどだ。

 それはそうと、アマゾンの「プライムだまし商法」がアメリカで問題になっているらしい。アマゾンで注文すると、注意していないと、勝手に「アマゾン・プライム」に契約させられる悪徳システムになっていて、私も1度引っかかった。日本でも糾弾運動が起きてもいい。黙っていると契約させられる商法は、マイナカードで日本政府もやっている。

 たった今、そのオーディオ・テクニカの製品が届いた。廃棄に関する文章が十数のヨーロッパ語で書いてある。それが何語かは大体わかるが、わからなかったのはSvenskaha。「多分、スウェーデン語だな」と想像がついて、正解。唯一ローマ字表記のPyccknnを調べてみれば、元はロシア語だ。キリル文字русский (ルースキー)を、英語ではPyccknn(ピカーン)と表記しているというのがネット情報なのだが、それは「英語」ではなく「ローマ字表記」が正しいのではないか。キリル文字のPはローマ字ではR音になるのに、そのままPを使っているのは変じゃないのかなあ?

 ロシア語にまったく興味がないから、学んだことがない。ロシア語で「ロシア語」をどう書くかなんてまったく知らなかった。Москваが「モスクワ」だということは、モスクワで覚えた。