1955話 政治的・社会的な話題を少し

 

トランプ前大統領が逮捕されると、やっと韓国並みになることになるなと思っていたら、ホントに逮捕されたが、高額の保釈金を支払い留置所生活からは逃れた。韓国では前大統領やその家族が退任後逮捕されるというのが伝統だったが、いまのところ退任後も平穏に過ごしている大統領経験者は、崔圭夏(1919~2006)と文在寅前大統領のふたりだけだ。日本では、前首相が逮捕されたのは田中角栄だけだから、「アメリカも日本並み」ともいえる。

テレビ番組でもっともすぐれていると思うのは、NHKの「病院ラジオ」だ。あんなつらい仕事を、サンドウィッチマンのふたりが引き受けた気概が素晴らしい。「もうすぐ私の命が終わります」という人と、笑いながら世間話をする精神力はすごい。その次にすごい番組だと思ってよく見ているのが、内容にもよるが、NHKの「世界のドキュメンタリー」。「追跡“ペガサス” スマホに潜むスパイ」前編・後編は、サスぺンス映画のようだった。カンボジアに潜む中国人犯罪者をあぶり出した「カンボジアの“奴隷”たち 中国特殊詐欺グループの巣窟」も、なかなかに見ごたえがあった。カンボジアは中国と深く結びついていることはわかっているが、裏社会でも深く結びついているというのがこの放送だ、中国で犯罪を犯してカンボジアに逃亡し、市民権をとって、堂々と犯罪を続けている中国人と、そこに深くかかわっている首相家族。表でも裏でも中国人はカンボジア権力層と深く結びつき、どうしようもないほど侵されている。カンボジアは、植民地、内乱、ポルポト時代、独裁政権という歴史で、マスコミや批判者などが育つ時間がなかった。権力者が、目先のカネ欲しさに中国とつながり、「うまく利用してやれ」と企んでいても、悪知恵で中国人にかなうわけはない。ラオス縦断鉄道も、借金が払えなくて、いずれ中国のものになるだろう。

タイの軍事政権は、野党指導者のプター氏を、「メディアの株を持っているのは憲法違反だ」などと言って騒いでいるが、ちゃんちゃらおかしい。タクシン前首相を「汚職をした」として実刑を言い渡したが、選挙でできた内閣を武力で破壊したタイ国軍の暴挙に比べれば、大したことはない。「汚職一掃」を旗印にするのがいつものクーデターだが、汚職とは無縁の軍事政権などありえないと、タイ人は皆知っている。外敵と戦うよりも、自国民を虐殺し続けているのがタイ国軍なのだ。その軍が作っているのが現政府なのだから、反勢力的な政治家への非難など、お笑いだ。諸悪の根源が軍だから、「お前が言うな」である。

 かつてクーデター反対の抗議行動をしていた昔の大学生は、その後エリート街道を歩み保守層に加わり、既得権益保全のために、タクシン政権がクーデターでつぶされたとき、「クーデター万歳」を叫ぶようになった。タマサート大学の教授は、クーデターはタイ式民主主義だ」などと言いだした。そういうなかで、クーデター反対と明確に意思表示したのが、スラムで貧困対策の運動を続けているプラティープ・ウンソンタム・泰さんで、だからその姿が印象に残った。

今、「そうだ、タイに行こう」という気にならない理由のひとつは、「軍事政権はいやだな」という感情は確かにあるのだが、考えてみれば半世紀にわたるタイとの付き合いのなかで、軍事政権下であったことの方が普通だった。「軍事政権はいやだ」、「独裁政権は嫌いだ」、「人権無視の政府が気に食わない」、「問題のある国には行かない」などと言い出せば、旅行できる国は少ない。ライターとしては、どんな国にでも行き、どんなことでも書くべきだろうという意見もあるだろうが、政治的な意味で気楽に旅行できない国には行く気がない。憂鬱になるに決まっている国には行く気はない。

どこかの場所を旅行地に選ぶには理由があるが、「行かない理由」って、どういうものだろう。そもそも関心のない国に対しては、あえて「行かない理由」などない。「治安が悪い」とか「不衛生」などは行かない理由に入るだろう。私だって安全な旅をしたいから、「ブラジル気まま旅」にはためらいがある。ケニアにまた行きたいと思うが、西江雅之さんと会ったとき、「いやあ、ナイロビで追いはぎにあってね。路上でいきなり『カネを出せ』ですよ」。半世紀にもわたってナイロビの路地を歩きつくした西江さんでも、そういう犯罪被害者にあうのだから、やはりナイロビは危ないのだろう。

ラジオを聞いていると、中古車販売や車検代行のCMが急に多くなったような気がする。かのビックモーターのシェアを奪おうということだろう。問題を起こした企業はそういう仕打ちを受けるのだが、逆にマスコミが支援しているのがジャニーズ事務所電通だろう。日本テレビも恒例により、ジャニーズ事務所を支援する長時間番組を放送した。