2012話 料理の油 その6 

ビルマ料理

 

 ラングーンで初めてその料理を食べて、「ああ、インドが近くなったな」と思った。その料理がウェッターヒンというのだということは後から知ったのだが、タイからビルマに入った旅行者には、インド亜大陸が近くなったと実感する料理だった。

 深皿に盛った料理の表面に、1センチ以上赤い油が浮いている。タイ料理に「ケーン」と呼ばれる料理があり、ケーン・ペットデーンは日本では「レッドカレー」などと呼ばれている。緑がかったケーン・キヤオワーンは「グリーンカレー」と呼ばれていて、飯屋で仕込んでいるところを見ると、鍋の表面が油でおおわれているのだが、皿に盛られると、油でおおわれているという印象はない。

 東南アジアは、インドと中国の文化の影響を強く受けている地域なのだが、インドの影響がより強いと感じるのが、マレー半島インドネシアで、インドシナ半島地域は中国の影響がより強いといえる。もちろん、どの部分を見るかということでその判断は変わってくるのだが、素人判断ではそのように感じている。東南アジア島嶼部でありながら、インドと中国の影響をそれほど強く受けていないのがフィリピンで、だから香辛料を多用した料理があまりない。

 ビルマは北に中国があるが、すぐ西はバングラデシュだからインド亜大陸の食文化と陸続きで接している。そしてもうひとつ、インド亜大陸を支配したイギリスがビルマも植民地にしたということで、インド人労働者も入ってきて、インドの食文化の影響がより強くなったと、私は考えている。

 ウェッターヒンという料理については、「バダウ ミャンマーよもやま話」に詳しい。その情報によれば、スパイスと油を大量に使ったウェッターヒンはヤンゴン風で、北のマンダレーではあまり油っぽくないというから、私がその昔ラングーンで食べたのが油いっぱいだったのは理解できる。

 「バダウ」の記事によれば、ヒンと呼ばれる料理は、日本では「カレー」と翻訳されることが多いが、「カレー風でないものもある」という。具体的にどういうものかわからない。タイ料理でも、ケーンは「タイカレー」と翻訳されることがほとんどだが、ケーン・チュート(澄んだケーン)はおすましのようなスープで、カレーとはまったく違う。

 インドの北西部、ダージリンへ行く基地となるシリグリの街で居候をしたことがある。街歩きは午前中に終え、午後からは台所にこもった。主人は食べ物に詳しく、料理人に詳しく指図していた。私は台所で料理風景を眺めているのが楽しかった。

 ある日のメニューは、鍋に油をたっぷり入れて骨付き鶏肉を入れたから、鶏のから揚げがメニューのひとつかと思ったのだが、鶏肉に火が通っても鍋から取り出さず、揚げ物をしている鍋にタマネギや香辛料を入れて、日本人の目にはカレーに見える料理を作った。使っている油は、マスタードオイルだといった。水はほとんど入れていないから、油煮である。出来上がった料理は、当然ながらたっぷりの油でおおわれている。「食材や香辛料のエキスが混じりあった油がうまい」という感覚は、わかる。こういう料理が、ビルマにも伝わったのだ。