82話 ポルトガルでインドネシア語


 ポルトガル北部の街ポルトの商店街を歩いていて、ある商店の看板に目が止まった。
 SAPATOS
 どこかで目にした記憶がある。その看板を見て思い出したのは、インドネシア語のSEPATUだ。意味はどちらも「靴」だ。インドネシア語には、アラビア 語やオランダ語からの借用語が多いということは知っていた。オランダに行ったとき、知っているインドネシア語が、じつはもとはオランダ語だったとわかっ た。インドネシア語では警察をPOLISI,出入国管理はIMIGRASIというが、これは英語のPOLICE、IMIGRATIONのインドネシア語訛 りだと思っていたが、じつはオランダ語そのままだったのだ。歴史的経緯からして、インドネシアオランダ語が数多く入っているのはわかる。ポルトガル語か らの借用語が多少あっても不思議ではないが、具体的には知らなかった。
 さっそく辞書で調べてみると、いくつか見つかった。ポルトガル語MESA(テーブル,発音はメーザ)は、インドネシア語ではMEJA。同じく、JANELA(窓)はインドネシア語ではJENDELAになる。
 日本にもポルトガル語からの借用語が多い。パン、カッパ、カルタなどはよく知られている。現在ではもはやセッケンを「シャボン」とは呼ばなくなったが、「シャボン玉」の語で残っている。これも、もとはポルトガル語だ。
 さて、そのシャボンだ。タイ語を習っているとき、セッケンは「シャブー」だと知って、その語源がすぐわかった。大航海時代ポルトガルの影響を受けているのだ。インドネシア語でもSABUNだから、これも同じだろう。そう思っていた。
 ある日、テレビでシリアのセッケン作りのようすを報告していた。シリアは、オリーブを原料にしたセッケンの産地として、セッケン愛好家の世界ではかなり有名な地らしい。
 テレビでは、男がカメラに向かって、セッケンの作り方を説明している。もちろんアラビア語だから、字幕がでている。男の話に気にかかる語があることに気 がついた。何度も「サボン」と言っているように聞こえるのだ。その番組はうまい具合にビデオに録画していあったので、何度か繰り返して、男の話を聞いた。 たしかに「サボン」と言っている。字幕との関連で、それがどうやらセッケンのことではないかと想像した。アラビア語よ、おまえもか。アラビア語ポルトガ ル語を借用していたのだろうか。
 腑に落ちないので調べてみると、セッケンの原形はメソポタミアで生まれたものらしく、異説はあるが、どうやら「シャボン」の語はアラビア語起源と考えら れるようだ。おそらく、インドネシアにはアラビア語のまま伝わり、タイや日本はポルトガル経由で入ってきたということだろうか。語源や物の移動経路という のは、俗説が多く、正確な情報はなかなかわからないのだから、私のこの話も正確さに自信はないとお断りしておく。